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[標本番号:No.550   採集日:2008/11/02   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ウロコミズゴケ   学名:Sphagnum squarrosum]
 
2008年12月5日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月11日から連日ミズゴケばかりを観察してきた。昨年梅雨の頃から11月2日までに採集した標本が20数点あったが、ようやく最後の一点の観察を終えた。手持ちのミズゴケで未観察の標本はなくなった。ミズゴケ観察はとりあえず来年の初夏までお預けとなる。
 「観察覚書」にアップしたのは、それらのうち7種14点だった。観察・撮影・記録はしたものの、約10点はアップしなかった。これらは採集地はそれぞれみな別なのだが、結果として同一日に同一地域(行政区画)で採集した形となったことによる。
 最後のひとつのミズゴケ標本は、日光市の加仁湯温泉から奥鬼怒方面に延びる遊歩道の脇、暗くジメジメした腐植土に群生していた(a)。標高1760m。見るからにウロコミズゴケ Sphagnum squarrosum そのものに見えたが、奥鬼怒遊歩道ではこれまで採集したことがないので、とりあえず持ち帰っていた。観察結果は、予測どおりウロコミズゴケだった。

(d, e) 開出枝と下垂枝、(f) 茎葉と枝葉、(g) 茎の表皮細胞、(h) 茎の横断面、(i) 枝の表皮細胞、(j) 枝の横断面、(k) 茎葉の付いた様子、(l) 茎葉

 画像を多数列挙したので、観察結果は略記するに留めることにした。茎葉の腹面は背面とあまり変わりないので、画像は省略した。結果として、これまでに観察してきたウロコミズゴケとさしたる違いはなかったので、サイズその他の詳細は記さない。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉背面上部、(n) 茎葉背面中央、(o) 開出枝の葉:カバーグラスなし、(p) 開出枝の葉、(q) 開出枝の葉背面上部、(r) 開出枝の葉背面中央、(s) 開出枝の葉腹面上部、(t) 開出枝の葉腹面中央、(u) 下垂枝の葉、(v) 下垂枝の葉背面上部、(w) 下垂枝の葉背面中央、(x) 下垂枝の葉腹面上部、(y) 下垂枝の葉背面中央、(z〜ac) 開出枝の葉横断面

 茎葉のサイズは個体によってかなりバラつきがあり、写真(f)はその一例に過ぎない。葉長が2mmを超える大型の茎葉ばかりをつけた個体もあった。大きさは別として、いずれも葉縁の舷は基部でもわずかしか広がらない。枝葉についても、開出枝の枝葉の基部は広卵形で鞘状に枝を包み中ほどから先は急に細くなって反曲する。それに対して、下垂枝の葉は枝の基部近くでは、卵形の基部からやや細い先端を延ばすが、枝の中ほどから先の葉では卵状披針形で、いずれも反曲することはない。開出枝の枝先についた葉は下垂枝の葉とほぼ同じ形をしている。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
 開出枝の葉の横断面を多数切り出してみた。葉緑細胞は、多くは樽形で背腹両面に出ていて腹側により広く開いている。しかし、腹面にのみ開いている葉もあれば、両面ほぼ均等に開いている葉もかなりあった。また、その形も二等辺三角形やら台形もあった。下垂枝の葉の横断面では、上記(aa)タイプ、すなわち透明細胞に比してとても小さな葉緑細胞が背腹両面に開かれたものが多かった。

 ほぼ1ヶ月の間コケといえばミズゴケばかりを観察していた。それ以外のコケは、まったく観察していない。あらためて振り返ってみると、初めて観察したミズゴケははからずもウロコミズゴケだった(標本No.6)。コケに関わるようになってまだ日が浅い2006年8月17日のことだ。
 その頃の観察覚書をみると、なんと素朴なことだったか。これでは単なる図鑑との絵合わせとあまり変わらない。掲載した写真には枝葉の背面や腹面はなかった。枝葉については横断面の写真だけだった。この頃は使っている文献も保育社図鑑だけだった。
 翌2007年4月に再びミズゴケを採集したのを契機に、[修正と補足:2007.04.10] で標本No.6を観察したときの顕微鏡写真を付加している。当時はまだサフラニンによる染色などといった常識は備えていなかった。先細ピンセットはもっておらず、茎から取り外した葉はいずれも崩れたものばかりだった。さらに、枝葉の透明細胞の観察に当たっても、背面と腹面を別々に観察するといった常識もなかった。無論、偽孔や糸といった概念はまったく理解していなかった。
 ここ1ヶ月ほどミズゴケばかりを観察してきたわけだが、あらためて感じたことがある。ていねいに観察すれば、ミズゴケの同定はそれほど困難ではないということだ。また、ミズゴケに限らないのだろうが、変異の幅がかなり大きいことも感じた。

[謝辞] ミズゴケ観察用にサフラニンを分けてくださり、研修テキスト「岡山理科大自然植物園主催 第3回自然環境調査技術研修会 −ミズゴケを同定する− (2007.6.30〜7.1)」を分けてくださった岡山理科大の西村直樹博士に、あらためて心から感謝します。