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[標本番号:No.562   採集日:2008/05/18   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:クジャクゴケ   学名:Hypopterygium fauriei]
 
2008年12月19日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 東京奥多摩で採取した残置標本のうちの三つ目を観察した。現地できちんと生態写真を撮らなかったことが多少悔やまれる(a)。沢に沿った道脇の腐植土にまばらに群落を作っていた。採取したのは数個体だったが、採集袋に入れたまま鞄の隅で押しつぶされていた。
 袋から取り出すと、すっかり乾燥していたがまだ緑色が残っていた(b)。水没させるとみずみずしい姿に復帰した(c)。一次茎は腐植土上を這い、二次茎が立ち上がり、茎の上部で平面的に樹状に枝を伸ばす。各枝は同一平面状に広がるので、ちょうど孔雀が羽を広げたような姿をしている。すぐにクジャクゴケ属 Hypopterygium の蘚類であるとわかった。
 各枝をみると、背側からは左右2列に交互に広がる側葉しかみえないが(d)、腹側をみると類円形の腹葉が整然と並んでいる(e)。側葉はゆがんだ卵形で非相称、長さ1.2〜1.5mm、葉頂は尖り、葉縁を2列の舷が取り巻き、その外側には小歯がある。中肋は葉の中央でなく片側に偏った位置をとおり、葉長の2/3あたりまで達する(f, g)。
 側葉の葉身細胞は、中央付近では六角形〜ひし形で、長さ25〜50μm、平滑(h)、葉頂付近では、長いひし形(i)、基部では長さ20〜30μm(i)。側葉の横断面をみると、中肋にはステライドはなく、単純な構造をしている(k)。
 腹葉は円形に近く相称、葉先は鋭く突出し、長さ0.6〜1mm、中肋が葉頂に達し、葉縁には2列の舷があり、舷の外側には歯がある(l)。腹葉の葉身細胞も、側葉とほぼ同様(m)、横断面の様子も側葉と変わらない(p)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
 茎と枝の横断面をみると、中心束の有無はハッキリしない。茎の表皮は小さなやや厚壁の細胞からなる(n)。枝の表皮細胞は、髄部より小さいが、壁は茎ほど明瞭な厚壁とはなっていない(o)。なお、標本には朔柄はついていたが、朔は折れて失われていた。朔柄は茎の上部につき、褐色で長さ2cmほど残っていた。

 クジャクゴケ科 Hypopterygiaceae クジャクゴケ属 Hypopterygium の蘚類であることは間違いない。保育社図鑑で種への検索表をたどってみた。腹葉の中肋が葉頂に達し、側葉の中肋は葉長の2/3で終わり、葉身細胞の長さが25〜50μmということから、クジャクゴケ H. fauriei に間違いなさそうだ。いずれ屋外で特徴を捉えた姿を撮影できるチャンスがあるだろう。