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[標本番号:No.576   採集日:2009/01/12   採集地:埼玉県、東秩父村]
[和名:フデゴケ   学名:Campylopus umbellatus]
 
2009年1月22日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 1月12日に埼玉県東秩父村で(alt 235m)、日当たりのよい明るく開けた場所の岩に着いていた蘚類を採集した(a)。乾燥状態では、下部の葉は茎に密着し、茎頂付近で長めの葉が広がって密生する(b, c)。湿ると下部の葉は展開するが、茎頂直下では短めの葉がやや疎につく(d)。
 茎は長さ2〜5cm、まばらに分枝し、茎には密に仮根をつける(c〜e)。葉は硬い感じの幅広披針形で、茎の下部では黒褐色、茎の中部から上では黄緑色、長さ3.5〜5.5mm、基部には仮根が着き、葉頂は中肋が透明な芒となって突出している(e〜g)。葉縁はほぼ全縁、中肋は葉基部で1/3以上の幅となり、葉裏面の中肋上には薄板がみられる(g, h)。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 葉身細胞は、葉上部から中部ではひし形で、長さ12〜20μm、厚膜で表面は平滑(i)。葉下部では方形や大形の矩形細胞となり(j)、翼部では薄膜方形の細胞がはっきりした区画を作っている(k)。葉の横断面を切り出してみると、葉幅の1/3を中肋が占めているのがよくわかる(l)。翼部の横断面をみると、部分的に2細胞厚となっている部分もある(m)。
 葉の横断面で、中肋には明瞭なガイドセルがあり、背側にも腹側にもステライドがある(p)。中肋背面には1〜3細胞高の薄板があり、葉上部では高く、下部では低く突出している(n〜q)。茎の横断面には中心束がある(r)。なお、朔をつけた個体はなかった。

 シッポゴケ科 Dicranaceae の検索表をたどると、ツリバリゴケ属 Campylopus に落ちる。平凡社の図鑑には「分類には中肋の横断切片をつくり、ステライドの有無や位置などをしらべる」と記されている。検索表をたどると、フデゴケ C. umbellatus にたどり着く。種の解説を読むと観察結果とほぼ一致する。
 昨年2月に栃木県で出合ったフデゴケ(標本No.380)は、背丈は小さく、多量の小石や砂にまみれていたので切片作りに難儀した。本標本はおおむね典型的なフデゴケなのだろう。