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[標本番号:No.573   採集日:2009/01/12   採集地:埼玉県、東秩父村]
[和名:チジレゴケ   学名:Ptycomitrium sinense]
 
2009年1月27日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 1月12日に埼玉県東秩父村で採集したこけのうち最後のひとつを観察した。社の石灯籠の屋根上に丸い塊を作って着いていた(a)。葉は乾燥してすっかり巻縮し、多数の朔をつけていた(b)。茎は高さ1〜1.2cmで、わずかに分枝し、葉を密につけ、明褐色の朔をつけていた(c)。
 葉は披針形で葉頂は尖り、長さ3〜3.5mm、葉縁は全縁、中肋は葉頂に達し、乾燥すると葉の上半が強く巻縮する(d, e)。3%KOHに浸すと黄色味が強くなる(f, h)。
 葉身細胞は、葉の上部中央から中ほどでは、方形〜丸みを帯びた多角形で、長さ8〜15μm、膜はやや厚く、表面は平滑(g); 葉先の縁から中央部の縁では、楕円形〜丸みを帯びた矩形で、長さ10μm、幅4〜8μm; 葉の下部では矩形の細胞が並び、基部では長さ25〜40μm、幅10〜15μmの大形薄膜の矩形細胞からなる(h)。葉の横断面で中肋には一列になった明瞭なガイドセルがあり、背腹両面にステライドがある(j, k)。茎の横断面には中心束がある(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
 胞子体は、長さ10〜12mmの朔柄をもち、倒卵型〜長卵型の朔が直立相称につく。帽にはヒダがあり、朔の大部分を覆い、蓋には長い突起がついている(m, o)。朔柄の基部には雌苞葉に隠れるように、鞘のに短い枝をもった雄花が1〜2つ着いている(n)。
 朔歯は一列で、各片は16枚の短い披針形で基部まで深く二烈し、表面は微細な乳頭に覆われている(q, r)。口環がよく発達している(q)。朔表皮の枝に近い基部には気孔がある(s)。朔の横断面をみると外壁は1層だが内壁は複数層からなるようだ(t)。雄花の苞葉を外すと造精器が現れた(u)。朔柄の横断面では、薄壁の大きな細胞が中心部にあり、外側から表皮の細胞は小さくて厚壁(v)。胞子は類円形で径18〜20μm。

 外見的形態からは、センボンゴケ科 Pottiaceae あるいはギボウシゴケ科 Grimmiaceae が疑われるが、朔が相称で直立し、葉身細胞表面が平滑であることから、センボンゴケ科ではなさそうだ。ギボウシゴケ科の検索表をたどると、葉先に透明尖がなく、帽にヒダがあり、胞子体基部に雄小枝を持つことから、チジレゴケ属 Ptycomitrium に落ちる。
 ついで、平凡社図鑑でチジレゴケ属の検索表をたどると、チジレゴケ P. sinense におちる。種の解説はないので、保育社図鑑(1972)とNoguchi "Moss Flora of Japan" Part2(1988)を観察結果と比較するとほぼ合致する。