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[標本番号:No.577   採集日:2009/01/12   採集地:埼玉県、吉見町]
[和名:シシゴケ   学名:Brothera leana]
 
2009年1月29日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 吉見の百穴で有名な吉見町の八丁湖の周りの樹林で、腐木についていたシッポゴケ科の小さなコケを観察した(a)。こけは白緑色でやや光沢があり、茎の先端部の葉脇には、緑色〜茶褐色で棒状の無性芽らしきものが多数ついている(b, c)。
 茎は高さ3〜5mmで、葉を密につける(c)。葉は針状で基部はやや広く、長さ2〜3mm、葉縁は全縁、わずかに反り返る(d〜f)。中肋は葉先にまで達するが、葉身部との境界はあいまいで、葉の大半では全体が中肋となり、基部で葉幅の1/4〜1/3ほど非中肋部がある。
 葉縁に透明な2列の舷が見られる葉もあり、この細胞列は葉先から中ほどにみられる(g, h)。葉身細胞は長い矩形〜線形で、長さ50〜80μm、幅8〜15μm、薄膜で平滑、舷の部分では長さ90〜110μm、幅4〜6μ(h)。葉の横断面をみると、中肋部と葉身部とを明瞭に区別できず、中肋部ではガイドセルやステライドはなく、背腹の大きな細胞には葉緑体がほとんどなく、両者に挟まれた小さな細胞層に葉緑体がある(i)。茎の横断面にはわずかに中心柱のような組織があるが、全体に細胞はあまり分化していない(j)。
 茎の頂に見られる無性芽の群は花が咲いたようにみえ(k)、一つ一つは紡錘形をしていて、長さ0.3〜0.6mm、若いうちは緑色だが、やがて黄褐色となる(l)。

 保育社の図鑑でシッポゴケ科 Dicranaceae の検索表をたどってみた。葉縁の舷の有無で検索が分かれている。本標本には葉縁に透明な舷があるが、すべての葉にあるわけではなく、さらに「はっきりした透明な舷」とは言いがたい。しかも葉身細胞は長い矩形で平滑なことからマツバゴケ属 Leucoloma は考えなくてよい。すると、シシゴケ属 Brothera におちる。この属は日本産はシシゴケ B. leana 1種だけとされる。種の解説を読むと観察結果とおおむね一致する。なお平凡社図鑑など他の文献の記載からもシシゴケとしてよさそうだ。