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[標本番号:No.581   採集日:2009/02/01   採集地:千葉県、君津市]
[和名:オオシラガゴケ   学名:Leucobryum scabrum]
 
2009年2月3日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 千葉県君津市の清和県民の森で大滝周辺を歩いていると、シラガゴケ属 Leucobryum の蘚が杉林の樹下に幾つも小群落を作っていた(a)。オオシラガゴケだろうと思い通り過ぎるつもりだった。ところが、何気なく脇をみると、先行者が抜いて捨てたのか、枝分かれした個体が転がっていた(b)。これまでに、これほどに分枝したオオシラガゴケは見たことがないので持ち帰った。
 茎は長さ4〜6cm、白緑色で絹のような光沢のある葉を密生し、葉の上半背面がザラついている(b, c)。葉は長卵型の基部をもった披針形で、長さ7〜10mm、樋状に大きく凹み、中肋の有無ははっきりしない(d)。葉の背面の細胞上端は突起がある(e)。葉の基部は狭くなっており、葉縁は全縁だが、2列の舷を持ったものもある。
 葉身細胞は複数層からなり、表層の細胞は透明矩形で、葉の上半部では背面透明細胞の上端は大きな突起となり、膜は薄い(g, h)。葉の中ほどから下では背面透明細胞の上端に突起はない(i)。葉の下半部で内部の葉緑細胞に合焦してみた(j)。葉基部の細胞は細長い矩形で輪郭を捉えにくかった(k)。葉の横断面は、上部から中ほどまでは、全体が3層となり、小さなひし形の葉緑細胞を大形透明な細胞が背腹から挟みこんでいる(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 葉の上部から下部まで複数の横断面をみると、ごくわずかに4〜5層の部分もあるが(m)、葉の大部分では葉緑細胞を含めて3層からなる(n)。5層になった葉の中央部でもそのままの厚みをたもち、くびれたような3層になることはない。総じて葉の大部分が3層からなっている。
 茎の横断面に中心束はない(o)。葉の上部背面の突起を明瞭に撮影できないものかと、サフラニン、コンゴーレッド、フロキシン、コットンブルーで染めてみた(p)。水で封入した場合より若干わかりやすい程度で、わざわざ染色するほどのことはなかった(q, r)。また、サフラニンは葉緑細胞を赤く染めたが、他の染料は、横断面で透明細胞も葉緑細胞も染まっていなかった。

 葉の上部背面の細胞上端が突出し、葉の長さが8〜10mm、茎に中心束がない、などからオオシラガゴケ Leucobryum scabrum だろう。ただ、これまで見てきたオオシラガゴケと比較すると、枝の分枝がやたらに多いこと、葉の横断面で中央にくびれがほとんどない。典型的なものからはかなり外れているように感じた。