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[標本番号:No.585   採集日:2009/02/07   採集地:静岡県、河津町]
[和名:ミヤマギボウシゴケモドキ   学名:Anomodon abbreviatus]
 
2009年2月13日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 伊豆半島の旧天城トンネル近くの沢(alt 640m)で急斜面に立つ細い広葉樹の樹幹に着いたコケを観察した(a)。すっかり乾燥して、葉が茎に密着し紐状に見えた(b, c)。現地でルーペを使って葉を見たが、枝振りなども考慮すると、シノブゴケ科 Thuidiaceae のキヌイトゴケ属 Anomodon の蘚類だろうと思った。標本には朔をつけた個体が含まれていた。二次茎は長さ1〜4cm、わずかに分枝し、乾燥時に枝に密着していた葉は、湿ると広く展開し彙状となった(d〜f)。

(g, h) 枝葉、(i) 枝葉の先端部、(j) 枝葉中央の葉身細胞:表面、(k) 枝葉中央の葉身細胞:輪郭、(l) 枝葉基部の葉身細胞、(m) 葉上部の横断面、(n) 葉中央部の横断面、(o) 葉基部の横断面、(p) 茎の横断面、(q) 苞葉の上部〜中央部、(r) 苞葉の葉身細胞

 枝葉は卵状の広い基部から、急に細くなって舌状に長く伸び、長さ2.5〜4mm、葉頂は鈍頭からやや尖り、葉縁は全縁だが、葉身細胞表面の大きな牙のため、微歯があるかのようにみえる。一本の強い中肋が葉頂近くに達する(h, i)。葉基部は半曲し両端がやや下延する(g)。
 葉身細胞は、葉の大半で類円形〜楕円形で、長さ12〜20μm、細胞表面の背腹には大きな牙状の突起がある(j, k)。葉先付近の葉身細胞も同様。葉基部の葉身細胞は、長矩形〜ウジ虫形で、長さ25〜35μm、壁は厚く、表面に乳頭はない(l)。葉の横断面を見ると背腹の牙状乳頭が顕著にわかる。横断面で中肋にステライドはない(m〜o)。
 苞葉は枝葉より細長くて小さいく、舌状の部分が長い(q)。葉身細胞の様子は、枝葉と同じく類円形で背腹の両面に牙状の大きな乳頭を持つ(r)。苞葉基部では翼部がよく発達し、矩形の大形細胞が並び(t)、翼部の肩の縁には単細胞の歯が突出している(s)。
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(s) 苞葉翼部の肩、(t) 苞葉翼部、(u) 朔をつけた枝、(v) 胞子体、(w) 上から見た朔歯、(x) 外朔歯の一部、(y) 外朔歯先端、(z) 外朔歯基部、(aa) 口環、(ab) 胞子、(ac) 朔柄表面、(ad) 朔の表皮細胞

 胞子体は枝の途中の葉腋につき(u)、朔は卵型で、直立し相称、長さ1.5〜1.8mm、小さな帽、長い嘴をもった蓋、2〜2.5mm長の柄からなる(v)。外朔歯は白系色で32枚あり(w)、内朔歯は明瞭にはわからなかった(x)。外朔歯の上半表面は小さなイボに覆われ(y)、下半では横条があり(z)、口環がよく発達している(aa)。胞子は球形で、径22〜30μm(ab)。朔柄表面は平滑(ac)、朔の表皮細胞は大きな不定多角形となっている(ad)。朔に気孔を探したが見つからなかった。

 枝振り、ズングリした舌状の葉、茎や枝に毛葉がなく、中肋が葉頂近くに達する、内朔歯の発達が悪い、などからキヌイトゴケ属の蘚類に間違いない。種への検索表をたどると、ミヤマギボウシゴケモドキ A. abbreviatus に落ちる。種の解説を読むと、観察結果とよく合致する。

 ふだんは観察、撮影してもそのうちのごく一部の画像だけしかアップしないが、今日は少し趣向を変えて、多くの画像を列挙することにした。枚数があまりにも多くなるので、苞葉を並べた姿、帽・蓋・朔の列挙、朔の横断面、朔柄の横断面、朔の内側の層、胞子を包む膜などの画像は掲げなかった。また、ミズゴケ類の観察の時にならって、図のキャプションを別途記した。