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[標本番号:No.590   採集日:2009/02/07   採集地:静岡県、河津町]
[和名:フトリュウビゴケ   学名:Loeskeobryum cavifolium]
 
2009年2月23日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 2月7日の伊豆半島で採集した大形の蘚類。標高630mの林道脇の岸壁に群生していた(a, b)。みたところイワダレゴケ科 Hylocomiaceae の蘚類と思われ、胞子体をつけていたので、朔を中心に観察してみることにした。

(a, b) 林道脇の壁面に群生、(c) 採集した標本、(d) 胞子体をつけている標本、(e) 乾燥状態、(f) 湿った状態、(g) 葉を取り去った茎、(h) 茎葉と枝葉、(i) 茎葉背面:カバーグラスなし、(j) 茎葉背面:カバーグラスを乗せた状態、(k) 枝葉腹面:カバーグラスなし、(l) 枝葉腹面:カバーグラスを乗せた状態

 一次茎は岩を這い、細く黒褐色をおび、葉をほとんど失って、長さ15〜25cmに及ぶ。二次茎は立ち上がり、6〜10cm、不規則羽状に分枝し、一部は樹状になる。乾燥しても湿っても姿にほとんど変化はない(e, f)。茎や枝の表面は無数の毛葉に覆われる(g)。横断面をみると顕著にわかる。茎の横断面には中心束があるが、枝の横断面には中心束はない。
 茎葉も枝葉もまるくなって密集してつく。二次茎の葉は広卵形で深く凹み、長さ3〜4mm、縦じわはほとんどなく、先端は急に細くなって尖り、基部は耳状となって下延して茎を抱く(h〜j)。枝葉は、茎葉とほぼ同様の姿形だが、小枝の葉では耳状には下延せず、長さ1〜2.5mm。茎葉も枝葉も葉縁には小さな歯があり、短い二本の中肋があり、葉基部は赤褐色を帯びる。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉中央の葉身細胞、(n) 茎葉先端の葉身細胞、(o) 茎葉基部の葉身細胞、(p) 茎葉基部の横断面、(q) 枝葉基部の横断面、(r) 茎葉中部の横断面、(s) 二次茎の毛葉、(t) 毛葉の一群、(u) 一単位の毛葉、(v) 胞子体下部と苞葉、(w) 苞葉、(x) 苞葉内側の一枚

 茎葉も枝葉も葉身細胞の様子はほとんど同じなので、ここでは茎葉についてのみ記す。茎葉の葉身細胞は長い楕円形〜線形で、長さ50〜70μm、幅4〜8μm、やや厚壁で平滑(m, n)、葉基部では長い楕円形で、長さ35〜55μm、幅8〜12μm、細胞壁にはくびれがある(o)。茎葉や枝葉の横断面をみると、中肋にはガイドセルやステライドはなく(p, q)、葉身細胞はやや厚壁であることがわかる(r)。
 毛葉は葉をつけた状態ではルーペなどでよく見ないとわかりにくいが(s)、葉を取り外すと顕著となる(g)。毛葉は二股に枝分かれし、各枝は先端が尖った一細胞列からなる(t, u)。
 苞葉は、長さ3.5〜4.5mm、楕円形〜卵形で、葉上半の縁には小さな歯があり、葉先は急に細くなり尖る(w〜x)。苞葉の葉身細胞は線形で、長さ35〜60μm、厚壁で壁にはくびれがあり(y)、基部では大きな方形〜矩形となる(z)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(ae)
(ae)
(af)
(af)
(ag)
(ag)
(ah)
(ah)
(ai)
(ai)
(aj)
(aj)
(y) 苞葉中央の葉身細胞、(z) 苞葉基部の葉身細胞、(aa) 胞子体、(ab) 朔、(ac) 帽、蓋、朔本体、(ad) 朔歯の部分、(ae) 飛び出した口環、(af) 口環、(ag) 胞子、(ah) 朔上部を切り開いた状態、(ai) 分離した外朔歯、(aj) 分離した内朔歯

 胞子体は茎や枝の途中からでて(d)、朔柄は赤褐色で、長さ2.5〜3cm、表面は平滑(aa)。朔は卵形で傾いて非相称、僧帽型の帽、嘴状の蓋をもつ(ab, ac)。朔歯は二重で、それぞれ16枚(ad)。朔から蓋を急激に取り除くと、間にあった口環がいくつかにちぎれて、くるくるとまるまった(ae)。そのよく発達した口環だけを別にしてみた(af)。胞子は球形で、径12〜20μm(ag)。
 平凡社図鑑にはフトリュウビゴケの朔歯のきれいな写真が掲載されている(p.22: f.)。その写真では外朔歯ばかりではなく、内朔歯の歯突起や間毛が明瞭に分かる。ただ、内朔歯の基礎膜は隠れて見えない。そこで、本標本でも外朔歯と内朔歯を分離してから観察しようと思った。
 朔を縦断面で半分にし(ah)、これから外朔歯(ai)と内朔歯(aj)を切り離した。うまい具合に内朔歯が明瞭にとらえられるように切り出すことができた。
 
 
 
(ak)
(ak)
(al)
(al)
(am)
(am)
(an)
(an)
(ao)
(ao)
(ap)
(ap)
(aq)
(aq)
(ar)
(ar)
(as)
(as)
(at)
(at)
(au)
(au)
(av)
(av)
(ak) 外朔歯先端、(al) 外朔歯上半、(am) 外朔歯基部、(an) 内朔歯:歯突起先端、(ao) 内朔歯:歯突起上半、(ap) 内朔歯:歯突起基部、(aq) 内朔歯:基礎膜、(ar) 朔の横断面、(as) 朔の壁、(at) 朔柄の横断面、(au) 朔下部にみられる気孔、(av) 朔外皮の細胞

 外朔歯の先端部は細い棒状となり、表面に梯子状の隆起と微細な乳頭があり(ak)、中程から基部に欠けては、縦にジグザグに亀裂線が走り、全体には多数の細かな横条がある(al〜am)。内朔歯は高い基礎膜をもち(aj)、歯突起の先端や間毛には顕著な乳頭があり(an)、歯突起は中央部に大きな穴が縦に連なるが、二裂することなく先端部ではつながっている(ao〜ap)。基礎膜には横に細い隆起が走る(aq)。
 朔の中程で横断面を切り出し(ar)、外壁をみた(as)。朔柄の横断面にも中心束のようなものがある(at)。朔基部の表面には気孔がある(au)。朔表皮の細胞は厚壁で類円形をしている(av)。

 平凡社図鑑でイワダレゴケ科の検索表をたどると、茎に毛葉があり、茎葉には縦じわがなく、茎は階段状には伸びず、茎の横断面に中心束があることからリュウビゴケ属 Loeskeobryum となる。属の解説には「日本産1種」とありフトリュウビゴケ L. cavifolium だけが掲載されている。種の解説を読むと、観察結果とほぼ合致する。