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[標本番号:No.596   採集日:2009/03/08   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:ケギボウシゴケ   学名:Grimmia pilifera]
 
2009年3月12日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(a, b) 石垣上の植物体、(c) 乾燥時と湿時、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 葉、(g) 葉の先端、(h) 葉中央の葉身細胞、(i) 葉下部の葉身細胞、(j) 葉翼部の葉身細胞、(k) 葉の横断面:上左−上部、上右−中央部、下左−下部、下右−基部、(l) 茎の横断面、(m) 葉上部の横断面、(n) 葉中央部の横断面、(o) 葉基部の横断面、

 今週の日曜日(3/8)に栃木県の神社(alt 200m)で、日当たりの良い石垣に群生していた硬い感触の暗緑色のコケを観察した(a)。ルーペで見ずとも、葉先が透明で白っぽく見える(b)。茎は直立しわずかに分枝、長さ2.5〜3.5cm、乾燥すると葉が茎に密着する(c〜e)。
 葉は長さ3.5〜5mm、卵状の基部から披針形に伸び、先端は透明な芒となり、下部で半局する。中肋が葉頂に達する。葉先端の透明尖を見やすくするため、サフラニンで染めたものと並べてみた(f)。葉先の透明尖は長さ0.3〜0.8mmに達し、鋭く尖り表面には歯がある(g)。
 葉身細胞は、葉の大半では類円形〜丸みを帯びた方形で、内腔の長さ6〜15μm(h)、葉の下部では矩形となり、壁が節状に肥厚し(i)、基部から翼部ではさらに大きな矩形の細胞が並ぶ(j)。葉の横断面をみると、上部では葉身細胞は2層の厚みをもち、上半部では縁に近い部分で2層だが多くは1層となり、中央から下部では葉身細胞は1層となっている。中肋には明瞭なガイドセルがあり、背面側にはステライドがよく発達している(k, m〜o)。茎の横断面に中心束はない(l)。

 現地で見た植物体には朔をつけたものは全くみられなかった。茎がほぼ直立し、葉が卵状披針形で透明尖をもち、葉身細胞が厚壁で丸みを帯び、強い中肋が葉先にまで達し、日当たりの良い乾いた岩につくことなどから、ギボウシゴケ科 Grimmiaceae に間違いなさそうだ。
 平凡社図鑑の検索表は朔があるケースを対象に作られている。本標本には朔がないのでそのままでは、どうにもならない。各属の特徴をみて「〜ではない」で消去していくと、ギボウシゴケ属 Grimmia が残る。
 属から種への検索表をたどると「E. 葉の中肋背面に翼がない」グループまではすんなりと落ちる。そこに掲載された4種についての説明を読むと、ケギボウシゴケ G. pilifera だけが該当する。種の解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。
 今回採取した標本はすべて雄株だったようだ。先にケギボウシゴケと同定した No.132 はほとんどの茎に朔がついていた。ケギボウシゴケは雌雄異株ということなので、本標本 No.596 は雄株、No.132 は雌株だったということだろうか。