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[標本番号:No.601   採集日:2009/03/08   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:キャラハゴケ属   学名:Taxiphyllum sp.]
 
2009年3月22日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 石灰岩壁の植物体、(c) 乾燥時、(d) 枝の一部拡大、(e) スライドグラス上の枝葉、(f) 枝葉、(g) 枝葉、(h) 枝葉上半、(i) 枝葉中央の葉身細胞、(j) 枝葉先端の細胞、(k) 枝葉翼部の細胞、(l) 枝葉基部の横断面

 栃木市星野にある御嶽山を構成する一峰の山頂直下、標高700m、西面のやや乾燥した登山道脇の石灰岩壁に着いていた蘚類を観察した。一次茎は岩を匍い、二次茎は不規則に分枝し、長さ1〜2cm、葉を含めた幅1〜2.5mmの枝をだす(c)。一次茎には葉はほとんど残っていない二次茎の茎葉と枝葉とには形や大きさの差異はあまりない。乾湿で植物体の姿は変わらない。
 枝はやや扁平気味に葉をつけ、背面に着いた枝葉は、多くが上半部を失っている(d)。茎葉は卵形で葉先は次第に細くなり、長さ1.2〜2.2mm、先端は軽く鎌形に曲がり、葉先の縁には微歯がある(e〜h)。中肋は二叉して弱く、葉の下部で消える。葉先付近以外の葉縁は全縁。翼部はわずかに発達しているが、明瞭な区画はつくらない(k)。横断面で中肋にはステライドはない(l)。
 葉身細胞は、葉の多くの部分では長楕円形〜イモムシ型〜線形で、長さ30〜60μm、やや厚膜で平滑(i)。葉先付近では葉身細胞は短く(j)、翼部には方形の細胞が少数並ぶ(k, q)。葉の背面上部の葉身細胞を重点的にみたが、細胞端が突出することはない(p)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(m) 茎の横断面、(n, o) 枝分かれの基部、(p) 枝葉背面上部の葉身細胞、(q) 枝葉基部の昇進細胞

 茎や枝の横断面には中心束があり、表皮は厚壁の小さな細胞からなる(m)。なお、茎や枝には毛葉はなく、枝分かれの基部や、将来枝となりそうな膨らみ部分にも、偽毛葉らしき構造は見つからなかった(n, o)。また、葉の基部は茎に下延せず、無性芽らしきものは見あたらず、朔をつけた個体はなかった。

 登山道脇の石灰岩壁にシノブゴケ属と複雑に絡み合ってついていた。石灰岩粉や泥ですっかり汚れていて、ミクロレベルでも汚れのない葉はほとんどなかった。さらに千切れた葉が非常に多く、観察には難儀した。そんな経緯もあって、葉の横断面はうまく切り出せなかった。
 全体の形や葉の形から、ツヤゴケ科 Entodontaceae、サナダゴケ科 Plagiotheciaceae、ナガハシゴケ科 Sematophyllaceae、ハイゴケ科 Hypnaceae の蘚類が候補に残る。茎葉の先が軽く鎌形に曲がることからツヤゴケ科ではなく、葉の基部が下延せず茎の横断面で表皮細胞が小さくて厚膜であることからサナダゴケ科でもないと判断した。また、ナガハシゴケ科は翼部の細胞が明確な区画をつくるとされるので、これも除外した。すると候補に残るのはハイゴケ科となる。
 ハイゴケ科のなかで、偽毛葉がない属となるとアカイチイゴケ属 Pseudotaxiphyllum とツヤイチイゴケ属 Herzogiella が残る。しかし、本標本を詳細に観察したが無性芽は見あたらなかった。さらにこの両属では茎の横断面で、表皮細胞が薄膜で大形であるとされるが、本標本では厚膜小形である。したがって、この両属は除外される。
 そこで、偽毛葉は失われているか、見落としていると考えて、再度考察してみた。すると、キャラハゴケ属 Taxiphyllum が候補に残る。属から種への検索表からはキャラハゴケ T. taxirameum が残る。しかし、以前キャラハゴケと同定した標本(標本No.578標本No.67)とは違うように思える。それにしてもキャラハゴケの可能性が高いように思える。