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[標本番号:No.609   採集日:2009/03/16   採集地:愛知県、新城市]
[和名:ヒロハヒノキゴケ   学名:Pyrrhobryum spiniforme var. bandakense]
 
2009年4月3日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b, c) 杉の根元の植物体、(d) 湿時、(e) 乾燥時、(f) 葉と茎、(g) 茎、(h) 葉、(i) 中央部の葉、(j) 葉先の表裏、(k) 葉の縁:歯牙は二重、(l) 葉中央の葉身細胞

 愛知県の鳳来寺山に寄った折、参道の杉の大木の根元に蘚類が大きな群落をなしていた。茎についた葉は、上下が細くなり中央部が幅広くつき、狸や狐の尾を思わせる(c, d)。乾燥すると軽く内曲する(e)。茎の下部は仮根に覆われるが、中部から先では仮根はみられない(f, g)。
 葉は茎の中央部のものが最も長く、茎の基部では幅広で小さくなり、長さ2.5〜6mm、中央部がやや広めの線状披針形で、強い中肋が先端に達する(h, i)。中肋背面には鋭い歯が並び、葉縁には二重になった歯牙が並ぶ(j, k)。葉縁は厚く2細胞層からなる(l, n)。葉身細胞は、丸みを帯びた多角形で、長さ6〜16μm、厚壁で平滑(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(m, n) 葉の横断面 、(o) 茎中央部の横断面、(p) 茎下部の横断面

 葉の横断面で中肋部は三角形をなし、顕著なガイドセルがあり、背腹両面にステライドがある(m, n)。茎の横断面には中心束があり、表皮は厚壁の小さな細胞からなる(o, p)。なお、朔をつけた個体はなかった。

 ヒノキゴケ属 Pyrrhobryum に間違いないだろう。胞子体の様子はわからないが、茎の仮根が少なく、全体に小振りであること、杉の根元に群生などから、ヒロハヒノキゴケ P. spiniforme var. bandakense としてよいと思う。