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[標本番号:No.612   採集日:2009/03/17   採集地:愛知県、新城市]
[和名:オオサワゴケ   学名:Philonotis turneriana]
 
2009年4月4日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a〜c) 石段についた植物体、(d) やや湿った状態、(e) 水中での姿、(f, g) 葉、(h) 乾燥時、(i) 乾燥状態、(j) 乾燥時の葉、(k) 葉の上半、(l) 葉背面の葉身細胞

 愛知県の鳳来寺山の麓の温泉宿赤引に宿泊したおり、部屋の前の廊下脇の石段についていたコケを採集した。朝露に濡れた葉と未成熟な丸い朔が瑞々しかった。
 茎は長さ3〜5cm、下部には葉はほとんどなく仮根を密につけ、上半部に黄緑色の葉を密につけ、茎自体は赤褐色(d)。葉は線状披針形で、基部近くが最も幅広く、長さ1.2〜1.5mm、葉先は鋭く尖り、葉縁には細かい歯がある(e〜g, k)。中肋は葉頂から突出する。乾燥すると著しい縦しわが生じ、葉は紐状に見える(h〜j)。
 葉身細胞は、長い矩形〜線形で、長さ30〜65μm、幅5〜10μm、背面では平滑だが、腹面の細胞上端は顕著に突出する(l, m, o)。翼部明瞭には分化していないが、矩形〜六角形の短い細胞が並び、腹面先端の突出は弱いかほとんどない(n)。葉の横断面で中肋背面の細胞はやや薄膜で大きい。茎の横断面には中心束があり、表皮細胞は大形薄膜(p, q)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
湿時  
  乾燥時
(w)
(w)
(m) 葉腹面の葉身細胞、(n) 葉腹面基部の葉身細胞、(o) 葉身細胞縦断面、(p) 葉の横断面、(q) 茎の横断面、(r) 朔、(s) 気孔、(t) 仮根、(u) KOHで封入した葉、(v) 湿時の葉、(w) 乾燥時の葉

 朔柄は2〜3cm(d)、朔は球形で山笠形の蓋をもつ(r)。採集した個体では、すべての朔が未成熟で蓋との分離もできなかった。朔の基部には多数の気孔がある(s)。仮根の表面は普通にみると平滑だが、倍率を上げると微細な乳頭がある。KOHで封入すると黄色味が増す(u)。

 サワゴケ属 Philonotis の蘚類には間違いない。この仲間の同定では、葉の形、葉身細胞の腹面と背面の突起の態様が重視されているようだ。葉身細胞の状態を確認するにあたっては、葉を取り外して、はじめに背面をチェックした。次いで同じ葉をひっくり返して腹面を確認した。合焦位置を間違えると、両面ともに細胞上端に突起があるかのように見える。
 葉身細胞の突起のためか、ルーペで葉を見るとザラついて輝いて見える。水で封入すると必ず大きな気泡が生じてきれいな画像は得られなかった。乾燥すると、葉がたちまち縦しわを帯びて細紐のようになるのが興味深くて、その写真を追加した(v, w)。
 オオサワゴケ P. turneriana としてよいと思う。