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[標本番号:No.622   採集日:2009/04/06   採集地:栃木県、鹿沼市]
[和名:シタミズゴケ   学名:Sphagnum subsecundum var. junsaiense]
 
2009年4月12日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 林道脇の小湿地、(b) 小湿地の植物体、(c) 植物体近接、(d) 標本、(e) 茎と枝、(f) 開出枝と下垂枝、(g) 茎と葉、(h) 茎の表皮細胞、(i) 茎の横断面、(j) 枝の表皮細胞、(k) 枝の横断面、(l) 茎葉

 前日光連山の標高1,200〜1,400m周辺を走っていると、林道脇に何ヵ所か小湿地があったので、その都度、車を端に寄せて駐めては立ち入ってみた。ウロコミズゴケの他にも、やや繊細なミズゴケがあちこちに小さな群れを作っていた(a〜c)。
 植物体は6〜12cm、黄緑色からやや白緑色で、枝葉をやや疎につける(d)。枝葉をつけた状態で、下垂枝は開出枝よりやや短かく、幅はやや細いが、開出枝と比較して極端に細くはない(e, f)。茎の表皮細胞に孔はなく、横断面で表皮細胞は1層で、木質部は髄部と明瞭に区別できる(h, i)。枝の表皮細胞には3列にレトルト細胞があり、レトルト細胞は首がやや長い(j, k)。
 茎葉は舌形で、長さ1〜1.4mm、葉先はやや尖り気味で丸い。茎葉には舷があり、上半部では狭く、中央下部では葉の内部まで広がる(l, m)。先端部は軽くささくれる(n)。茎葉腹面上部の透明細胞には多数の孔と糸が並ぶが(q)、腹面下部では孔はなく糸ばかりが目立つ(r)。背面の透明細胞にも少数の縁の厚い孔がある(o, p)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉、(n) 茎葉の先端部、(o) 茎葉背面上部、(p) 茎葉背面中央、(q) 茎葉腹面上部、(r) 茎葉腹面中央、(s) 茎葉と枝葉、(t) 枝葉背面上部、(u) 枝葉背面中央、(v) 枝葉腹面上部、(w) 枝葉腹面中央、(x) 枝葉の横断面

 枝葉は広卵形で、長さ1.2〜1.5mm、深く凹み、多くは葉先が左右いずれかに弱くゆがんでいる(s)。下垂枝の葉は、開出枝の葉とほぼ同じ幅。枝葉の透明細胞の縁には、縁の厚い小さな孔や境界のあいまいな孔が多数並ぶ。孔は、枝葉背面にも腹面にも見られるが、縁の厚い孔は背面の側に多い。枝葉の横断面で、葉緑細胞は背腹両面に開き、背面側がやや広い(x)。

 茎や枝の表皮細胞に螺旋状の肥厚がなく、枝葉の横断面で葉緑細胞が背腹両面にひらいているから、ミズゴケ節 Sect. Spagnum、キレハミズゴケ節 Sect. Insulosa、キダチミズゴケ説 Sect. Rigida、スギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata ではない。さらに、茎葉の舷は葉の中程で広くなっているから、ウロコミズゴケ節 Sect. Squarrosa でもない。残るのはユガミミズゴケ節 Sect. Subsecunda ということになる。ユガミミズゴケ節の特徴として、茎葉の表皮細胞が1層ないし2層であり、枝葉の透明細胞の縁に多数の小さな孔があるとされ、観察結果はまさにそのとおりである。
 平凡社図鑑でユガミミズゴケ節の種への検索表をたどると、枝葉の透明細胞の孔は小さくて互いに接することなく、接合面に沿って不連続に配列し、その孔は縁が厚くて、偽孔も見られる、茎の表皮細胞は1層だから、すなおにシタミズゴケ S. subsecundum var. junsaiense に落ちる。シタミズゴケはユガミミズゴケ S. subsecundum の変種とされているが、平凡社図鑑の簡略な解説からは、詳細はよくわからない。滝田(1999)を参照すると、観察結果とほぼ一致する。