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[標本番号:No.629   採集日:2009/04/19   採集地:茨城県、石岡市]
[和名:キダチヒラゴケ   学名:Homaliodendron flabellatum]
 
2009年4月27日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 岩についた植物体、(b ,c) 植物体、(d, e) 採取標本、(f) 葉の拡大、(g, h) 葉、(i) 葉身細胞:葉先付近、(j) 同左:葉中央部、(k) 同左:葉基部、(l) 葉の横断面

 4月19日に筑波山で採集したコケの最後の一つを観察した。沢沿いの大きな岩にシノブゴケ属と混じってヒラゴケ科 Neckeraceae の蘚類がついていた(a〜c)。一次茎は岩を匍い、二次茎は長さ1.5〜3cm、上部で数回羽状に分枝し、全体が団扇のように平面的になる(d, e)。乾いても葉に皺がよることもなく、湿時の姿とあまり変わりない。
 葉は長卵形で、長さ2.5〜3mm、非相称で葉先は尖り、葉頂付近の縁には大きな歯牙がある(f〜i)。葉の基部の縁は片側だけが内曲する(g)。葉身細胞は長楕円形で、長さ25〜45μm、平滑で厚壁(j)、葉先付近では小さな菱形で(i)、葉基部ではさらに長い楕円形〜線形(k)。葉の横断面で中肋にはステライドなどはなく、細胞が厚壁であることがわかる(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(m) 葉の横断面、(n) 茎の横断面と葉基部の横断面、(o, p) 茎の横断面

 茎の横断面に中心束はなく、表皮は厚壁で小さな細胞からなる(n〜o)。なお、一次茎につく葉はほとんどが崩れて観察できなかった。二次茎の葉は枝葉よりやや大きいが、全体の形や葉身細胞の姿などは茎葉も枝葉も変わらない。

 平凡社図鑑の検索表をたどると、キダチヒラゴケ属 Homaliodendron に落ちる。さらに種への検索表をたどるとキダチヒラゴケ H. flabellatum となる。種の解説をよむと葉身細胞の長さ以外はおおむね観察結果と一致する。Noguchi(Part3 1989)に記述された葉身細胞の長さは、平凡社図鑑のものよりずっと長い。本標本はやや小振りのキダチヒラゴケだと思う。