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[標本番号:No.656   採集日:2009/06/09   採集地:千葉県、君津市]
[和名:コムチゴケ   学名:Bazzania tridens]
 
2009年6月17日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 湿らせた状態、(c) 標本、(d) 背面と腹面、(e) 腹面と腹葉、(f) 葉と腹葉、(g) 葉、(h) 葉中央部の葉身細胞、(i) 葉基部の葉身細胞、(j) 腹葉、(k) 腹葉の葉身細胞、(l) 茎の横断面

 今月9日に千葉県房総半島君津市の城趾公園でムチゴケの仲間を採集した(a, b)。コムチゴケやムチゴケであれば既に何度も観察しているので、採取をやめようと思ったが、久しぶりの苔類観察のつもりで持ち帰っていた。菌類関係の行事が続き、さらに採取したきのこの観察に忙殺され今日まで手つかずの状態だった。
 植物体は、標高250m付近で、斜面の土上〜樹根の表面を広くおおっていた。茎は3〜5cm、葉を倒瓦状につけ、葉を含めた茎の幅は2〜2.5mm、腹面には腹葉があり、多くの長い鞭をつけ、二叉状に枝分かれする(c, d)。
 葉は卵形〜舌形で、長さ0.8〜1.2mm、葉縁はほぼ全縁、葉先は切形で、2〜3個の大きな歯がある(f, g)。葉身細胞の膜は厚く、トリゴンはやや小さい。葉身細胞は葉の基部中央付近で最も大きく、葉上部や葉縁では小さい。各の細胞には、紡錘形の油体が4〜20個ある(g〜i)。
 腹葉は葉よりずっと小さく、幅は茎径の1.2〜1.6倍、茎に倒伏して接在し、丸みを帯びた四角形、基部を除くと細胞の内容物はなく、透明に見える。葉縁はほぼ全縁〜弱鈍歯がある(f, j)。腹葉の葉身細胞は基部にだけ葉緑体や油体があるが、大部分で内容物はない(k)。
 茎の横断面をみると、組織の分化はほとんどなく、全体がやや厚膜の細胞からなる。なお、葉の横断面は平滑で、鞭には葉が疎らにつき、鞭葉の葉身細胞は腹葉のそれとよく似ている。

 現地では小形のムチゴケ Bazzania pompeana かコムチゴケ B. tridens だろうと思っていた。念のために保育社図鑑でムチゴケ属の検索表にあたってみると、コムチゴケに落ちる。コムチゴケについての解説を、保育社図鑑および平凡社図鑑にあたってみると、観察結果とほぼ一致する。久しぶりの苔類だったので、服部植物研究所報告 No.19 服部・水谷「ムチゴケ科邦産種の再検討」(1958) にもあたってみた。この中では、コムチゴケは Bazzania albicans の学名で記されている。そこにある記載と図は、観察結果とほぼ符合する。