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[標本番号:No.678   採集日:2009/07/11   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ゴレツミズゴケ   学名:Sphagnum quinquefarium]
 
2009年8月15日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 採集標本、(b, c) 標本上半部拡大、(d) 開出枝と下垂枝、(e) 開出枝拡大:葉が整然と5列に並ぶ、(f) 茎と茎葉、(g) 茎の表皮細胞、(h) 茎の横断面、(i, j) 茎葉、(k) 茎葉背面上部、(l) 茎葉腹面上部

 このところ連日ずっときのこ観察に追われて他のことをする暇はなかった。きのこをひとまず一段落させたので、久しぶりにコケを観察する時間がとれた。7月前半に採集したミズゴケがまだいくつか残っていた。標本No.677は観察した結果コアナミズゴケ Sphagnum microporum だったので、アップするのはやめ、同月11日に日光市で採集した標本No.678を観察した。
 鶏頂山大沼近くの標高1,500m付近、登山道脇の小湿地に複数種のミズゴケが出ていた。そのうちの一つが本標本No.678だ。生態写真がどれだったのかはっきりしないので、掲載できなかった。生態写真と標本番号を照合するシステムを工夫しなくてはならない。
 茎は高さ4〜7cm、葉を密につける(a)。枝は開出枝3本+下垂枝2本という組み合わせが最も多い(d)。葉をつけた枝の様子が鉛筆のようだ。ただ、鉛筆のように六角形ではなく、枝の多くの部分が五角形をなしている(e, w, x)。枝が5列についているらしい。茎の表皮細胞は矩形で、螺旋状肥厚も孔もない(g)。茎の横断面で表皮細胞は2〜3層で、わずかに4層の部分もある(h)。
 茎葉は舌状三角形〜卵状披針形で、長さ1.2〜1.4mm。舷が先端まで達し、中央部から基部にかけては広くなり、下方では葉幅の1/2に達する(i, j)。茎葉腹面の上部から中央にかけて、透明細胞に糸と偽孔が見られる(l)。背面では糸は少ないか目立ちにくい(k)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
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(o)
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(p)
(p)
(q)
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(r)
(r)
(s)
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(t)
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(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 枝の表皮、(n) 枝の横断面、(o, p) 枝葉、(q) 枝葉背面上部、(r) 枝葉背面中央、(s) 枝葉腹面上部、(t) 枝葉腹面中央、(u, v) 枝葉の横断面、(w, x) 開出枝拡大:葉が5列につく

 枝葉は卵状披針形で、長さ1.1〜1.5mm(o, p)。枝葉腹面上部の透明細胞には大きな偽孔があるが、下部には偽孔もなく、全体に貫通する孔はない(s, t)。一方、枝葉背面の透明細胞には縁の厚い半月形や楕円形の孔や双子孔、三子孔がある(q, r)。枝葉の横断面で葉緑細胞は二等辺三角形で、腹面側により広く開いている(u, v)。

 茎や枝の表皮細胞に螺旋状肥厚がなく、枝葉の透明細胞には多数の子孔がなく、枝葉の横断面で葉緑細胞が背腹両面に開き、腹面側により広く開いていることから、スギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia のミズゴケに間違いない。
 平凡社図鑑で種への検索表をたどると、すんなりとゴレツミズゴケ S. quinquefarium に落ちる。しかし、平凡社図鑑にはゴレツミズゴケについては検索表に記された以上の解説がない。そこで、滝田(1999)の記載を読むと、観察結果とほぼ一致する。滝田の検索表からも、非常に楽にゴレツミズゴケにたどり着けた。それにしても、枝葉の並び方が、螺旋状ではなく直線上に五列に並ぶのは非常に特徴的だ。現地でルーペで見てもすぐに気づく特徴なのかもしれない。