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[標本番号:No.681   採集日:2009/07/31   採集地:福島県、福島市]
[和名:アオモリミズゴケ   学名:Sphagnum recurvum]
 
2009年8月21日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 採集標本、(b) 乾燥した標本、(c) 開出枝と下垂枝、(d) 茎と茎葉、(e) 茎の横断面、(f) 茎の表皮、(g, h) 茎葉、(i) 茎葉背面上部、(j) 茎葉背面中央、(k) 枝の表皮、(l) 枝の横断面

 去る7月31日に福島県磐梯吾妻周辺の湿地(alt 1600m)で、水に浸った状態で群生していたミズゴケを採集した。標本はチャック付ポリ袋に入れ冷蔵庫で保管しておいた。残念ながら、現地生態写真は残っていない(「たわごと」→「苦労して撮影した写真が・・・」)。

 茎は長さ8〜12cm、やや硬い感触で、乾燥すると枝葉が波打ったようになる(a, b)。標本の茎には葉がまばらについていた(d)。茎の表皮細胞は矩形で、螺旋状肥厚も孔もなく、茎の横断面で表皮は連続的に木質部となり、独立した表皮細胞を認めることはできない(e, f)。
 茎葉は長さ0.7〜0.8mm、舌状三角形〜卵状三角形で先端部がわずかに総状に裂けている(g, h)。葉縁の舷は先端近くに達し、上部では狭く中央下部から基部にかけて大きく広がっている。茎葉には糸や孔は見あたらない(i, j)。
 枝の表面にはレトルト細胞が2〜4列に並ぶ。レトルト細胞の首は短い(k, l)。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m, n) 開出枝の葉、(o) 開出枝の葉:背面上部、(p) 同左:背面中央、(q) 同左:腹面上部、(r) 同左:腹面中央、(s, t) 下垂枝の葉、(u) 下垂枝の葉:背面上部、(v) 同左:背面中央、(w) 同左:腹面上部、(x) 同左:腹面中央

 枝葉は1.4〜1.8mm、卵状披針形で、下垂枝の葉は開出枝の葉よりやや細い(m, n; s, t)。透明細胞には、背腹両面に貫通する孔があるが、大きな孔は見られない(o〜r, u〜x)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は背腹両面に開き、背面側により広く開いている(y, z)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(y) 開出枝の葉横断面、(z) 下垂枝の葉横断面

 乾燥すると枝葉の縁が波打ち、茎や枝の表皮細胞が平滑で、枝葉の横断面で葉緑細胞の底面が背面側にあり、茎葉は基部で舷が広くなることから、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata の蘚類だと思う。平凡社図鑑で種への検索表をたどると、アオモリミズゴケ Sphagnum recurvum ないしコサンカクミズゴケ S. recurvum var. tenue に落ちる。
 採取標本は典型的なものではないらしく、いずれの種についての解説にもうまく符合しない。コサンカクミズゴケの特徴として、下垂枝透明細胞の背面上端に大きな貫通する孔があるとされる。しかし本標本にはそういった状態は見つからない。また、下垂枝透明細胞の孔の様子はサンカクミズゴケ S. recurvum var. brevifolium ともよく似ているが、本標本の茎葉は先端が尖っていない。典型的なものからはかなり外れているようだが、ここではとりあえずアオモリミズゴケとして扱っておくことにした。