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[標本番号:No.708   採集日:2009/08/8   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:ユガミチョウチンゴケ   学名:Trachycystis ussuriensis]
 
2009年9月6日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(a, b) 植物体、(c) 採集標本:乾燥時、(d) 同左:湿時、(e) 乾燥時の葉、(f) 茎の頂部付近

 さる8月8日に菌類調査のため富士山の山梨県側、標高1510m付近を歩いた。そのおりに、チョウチンゴケ科の蘚類が茶褐色の雄花盤らしい構造を見せていた(a, b)。植物体は倒木や腐朽木に群生していた。茎は高さ2〜4.5cm、乾くと葉が縮れる(c, e)。茎頂の雄花盤らしい構造の直下からは短い枝が4〜6本出て、茎葉よりずっと小形の葉をつける(f)。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(g, h) 茎の葉、(i, j) 雄花盤の周りの葉、(k, l) 頂部から出た枝の葉、(m, n) 葉先付近、(o) 葉の先端部、(p) 葉中央の葉身細胞、(q) 葉の横断面、(r) 茎の横断面

 茎の中央部から上部の葉は、卵状披針形で長さ2.2〜2.8mm(g, h)。雄花盤直下の葉(苞葉)は、広卵状楕円形で長さ3〜3.5mm(i, j)。茎頂直下から分かれた枝の葉は小さく、楕円形で長さ1.1〜1.5mm(k, l)。
 どの部分の葉にも、葉縁に舷はなく、葉の上半部には一重の歯があり、中肋が葉頂付近で終わる(h, j, l)。中肋上部背面には歯がある(m, n)。葉身細胞は厚壁で丸みを帯びた多角形で、長さ12〜22μm(p)。翼部は分化せず、葉身細胞は葉の基部でやや長めになる。葉の横断面で中肋にはガイドセルがあり、背面にはステライドもある(q)。葉身部の横断面で表面はほとんど平滑かわずかに丸みを帯びている。茎の横断面には中心束がある(r)。

 葉身細胞が厚壁で丸みを帯びた多角形、強壮な中肋が葉頂近くに達し、葉縁には舷がなく、葉上半部の縁に歯があることなどから、チョウチンゴケ科 Mniaceae の蘚類だろう。平凡社図鑑でチョウチンゴケ科から属への検索表をたどると、コバノチョウチンゴケ属 Trachycystis となる。
 ついで属から種への検索表をたどると、ユガミチョウチンゴケ T. ussuriensis に落ちる。種の解説を読むと観察結果とおおむね一致する。図鑑には「(葉身細胞の)マミラは不明瞭なことが多い」とある。