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[標本番号:No.721   採集日:2009/08/29   採集地:山梨県、甲府市]
[和名:チシマシッポゴケ   学名:Dicranum majus]
 
2009年9月28日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 採取標本、(c) 湿時、(d) 葉、(e) 葉の基部、(f) 葉の中央部、(g) 葉の先端部、(h) 葉中央部の葉身細胞、(i) 葉下部の葉身細胞、(j) 葉先端の葉身細胞、(k) 翼部の葉身細胞、(l) 茎の横断面

 先月末に奥秩父の金峰山に登った折に採集したシッポゴケ属の蘚類を採取した。茎は直立し長さ6〜12cm、先端に3〜7本の朔をつけていた(a, b)。乾燥しても湿っていても葉の様子はほとんど変わらず、茎につく葉は同方向に鎌形に曲がる(c, d)。
 葉は披針形で先は細く長く伸び、全体は鎌形に曲がり、中央部から上部の縁に鋭い葉がある(d, f, g)。中肋は比較的細く、葉先に達し、基部では葉幅の1/10以下で、上部背面には歯が並ぶ(f, g)。葉の基部は鞘条となり、翼部がよく発達している(e)。
 葉身上半の細胞は楕円形で、長さ30〜70μm、幅12〜20μm(h)、葉下半の細胞は長楕円形で、長さ50〜80μm、幅10〜15μm(i)、やや厚壁でくびれがある。葉先では菱形で厚壁の細胞が並ぶ(j)。翼部では薄壁で矩形の細胞が複数層に重なり、細胞の輪郭はやや不明瞭(k)。
 茎の横断面で中心束があり、表皮細胞は厚壁で小さい(l, m)。葉基部の横断面をみると、翼部の細胞が複数層からなっていることがわかる(n)。葉先から葉基部まで、葉の横断面にみる中肋は、いずれも背腹両面にステライドが発達している(o〜r)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 葉基部の横断面、(n) 葉翼部の横断面、(o) 葉上部の横断面、(p) 葉中央部の横断面、(q) 葉下部の横断面、(r) 葉基部の横断面、(s) 朔柄と雌苞葉、(t) 雌苞葉、(u) 雌苞葉の上部、(v) 雌苞葉中央部の葉身細胞、(w) 雌苞葉基部の葉身細胞、(x) 朔と朔柄上部

 朔柄基部を包む雌苞葉は、長方形の先に細い芒をつけたような形で、長さ5〜15mm、中肋が尖った先端にまで達する。雌苞葉の葉身細胞は、長楕円形から線形で、長さ50〜150μm、幅8〜12μm、厚壁で強くくびれている。基部の細胞は長い矩形で、やや厚壁でくびれはない(w)。
 朔柄は長さ1.5〜2.5cm、表面は平滑。僧帽形で平滑な帽、先端が長い針状となった蓋をもち、朔歯は16枚で一重(b, x〜ab)、朔の基部周辺には気孔がある(ac)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(ae)
(ae)
(af)
(af)
(ag)
(ag)
(ah)
(ah)
(ai)
(ai)
(aj)
(aj)
(y) 朔、(z) 帽、蓋、朔本体、(aa) 朔歯:閉じた状態、(ab) 朔歯:やや開いた状態、(ac) 朔下部の気孔、(ad) 朔の横断面、(ae, af) 朔歯、(ag) 朔歯下部、(ah) 朔歯中央、(ai) 朔歯先端、(aj) 胞子

 朔に口環はなく、朔歯は赤色で、披針形で、中央から先で2裂する。朔歯の下部から中央にかけて横の区切りの間に細かい縦条があり、細くなった先端部は乳頭に被われる(af〜ai)。胞子は球形で、径20〜24μm。

 念のため平凡社図鑑でシッポゴケ科 Dicranaceae から属への検索表をたどると、すなおにシッポゴケ属 Dicranum に落ちる。さらに属から種への検索表をたどると、すなおにチシマシッポゴケ D. majus に落ちる。さらに種の解説を読むと観察結果とほぼ一致する。平凡社図鑑には雌苞葉については触れていないが、Noguchi(Part1 1987)に描かれた雌苞葉の形などは観察結果とよく似ている。なお、平凡社図鑑の種の解説のなかに「雌雄異株。矮雄は雌株の仮根に生える」とあるので、矮雄を探してみた。朔を5〜6本つけている個体下部の仮根をみると、それらしいものがある(aj)。湿らせて、先細ピンセットでつまむと、何の抵抗もなくすぐに外れた(al)。
 

 
 
(a)
(ak)
(b)
(al)
(c)
(am)
(d)
(an)
(e)
(ao)
(f)
(ap)
(g)
(aq)
(h)
(ar)
(i)
(as)
(j)
(at)
(k)
(au)
(l)
(av)
(ak) 矮雄?、(al) バラした矮雄?、(am, an) 矮雄?、(ao) 苞葉を開いてみた、(ap) 最奥にみられた組織、(aq, ar) 矮雄?、(as) 苞葉、(at) 苞葉中央部、(au) 苞葉基部、(av) 矮雄?の最奥の組織

 これまで何度か、矮雄探しをしてみたがいまだかつて一度も見たことがない。そのため、はたしてこの組織(ak〜an)が本当に矮雄なのか心許ないが、これらを矮雄だと考えて、雄苞葉や造精器などを探してみた。これまで知っている造精器と似通った組織はみられず、何となくそうかもしれないといった構造を見ることができた(ap, qv)。雄苞葉らしき葉(as〜au)には、長い中肋があり、葉身細胞は、雌苞葉のそれよりも小さく細胞壁のくびれもない(at, au)。