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[標本番号:No.727   採集日:2009/09/20   採集地:福島県、南会津町]
[和名:コサンカクミズゴケ   学名:Sphagnum recurvum var. tenue]
 
2009年10月9日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 採取標本、(c) 枝と茎、(d) 乾燥状態、(e) 茎と茎は、(f) 茎の表皮、(g) 茎の横断面、(h) 枝の表皮、(i) 枝の横断面、(j, k, l) 茎葉

 先月20〜21日に南会津の山を歩いた。その折りに小湿地があればミズゴケから出るキノコを探した。ミズゴケからでるキノコのホストはいずれもミズゴケ節 Sect. Sphagnum のものだった。その際に副産物としてミズゴケ標本が13〜15点ほど生じることになった。

 そのうちの一つ、標高1,100mあたりで採取したミズゴケを観察した。イネ科植物の茂るやや日陰に群生していた。乾燥すると葉の縁が波打つ。茎は長さ10〜18cm、黄緑色の柔らかい感触で、表皮細胞は矩形で孔はなく、横断面で表皮細胞と木質部との間に境界はない。枝の表皮には2〜3列にレトルト細胞が並ぶが、首は長くない。
 茎葉は長さ0.7〜0.9mm、ほぼ正三角形で、葉頂はやや丸みを帯び、頂部の透明細胞には孔がある。葉上部の舷は細いが、中央から下部で大きく広がる。
 

 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
(s)
(t)
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(u)
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(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(m) 茎葉背面上部、(n) 茎葉背面中央、(o, p) 開出枝の葉、(q) 開出枝の葉:背面上部、(r) 同前:背面中央、(s) 同前:腹面上部、(t) 同前:腹面中央、(u, v) 下垂枝の葉、(w) 下垂枝の葉:背面上部、(x) 同前:背面中央、(y) 同前:腹面上部、(z) 同前:腹面中央、(aa, ab) 枝葉横断面

 開出枝の葉は長さ1.4〜1.6mm、卵状披針形で深く凹み、乾燥すると葉縁が波打ち葉先が軽く反り返る。下垂枝の葉は開出枝の葉より小さく、長さ1.0〜1.2mm、広卵形。枝葉背面の透明細胞の先端には貫通する孔がある。下垂枝の葉では、背面の透明細胞上端の孔が大きい。枝葉の横断面で、葉緑細胞は三角形で、背側に広く開き腹面に達する。

 茎や枝の表皮に螺旋状肥厚はなく、乾燥すると枝葉が波打ち、枝葉の葉緑細胞は背側に広く開き、茎葉は正三角形で、枝葉に比して小さく、舷が下方で広がることなどから、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata のミズゴケに間違いない。平凡社図鑑でハリミズゴケ節の検索表をたどると、アオモリミズゴケ Sphagnum recurvum あるはコサンカクミズゴケ S. recurvum var. tenue に落ちる。種の解説と滝田(1999)の解説を読むと、どうやらコサンカクミズゴケのようだ。