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[標本番号:No.746   採集日:2009/09/20   採集地:福島県、南会津町]
[和名:ハリミズゴケ   学名:Sphagnum cuspidatum]
 
2009年11月7日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 採取標本、(d) 茎と枝、(e) 乾燥状態、(f) 茎と茎葉、(g) 茎の表皮、(h) 茎の横断面、(i) 枝の表皮、(j) 枝の横断面、(k, l) 茎葉

 9月20日以降に採取したミズゴケ標本が数十点ほど野積み状態となっている。いずれも、ミズゴケから出るきのこのホスト、およびそれらと混在していたものだ。とりあえず、きのこのホストについてはすべて同定しおえたが、検鏡写真や記述は同定に必要な十分条件だけしかやっていない。しばらくの間は、これらのミズゴケを観察することになる。

 今朝観察したのは9月20日に南会津で採取したものだ(alt 1200m)。茎は長さ8〜12cm、やや固く尖ったイメージを受ける(c, d)。乾燥すると葉の縁が軽く波うつ(e)。茎の表皮細胞は矩形で孔はなく(g)、横断面で表皮細胞は3〜4層で木質部との境界はやや不明瞭(h)。枝の表皮にはレトルト細胞が2〜4列あり、レトルト細胞の首は短い(i, j)。
 茎葉は二等辺三角形で、長さ1.8〜2.0mm、先端は尖り3〜4個の歯がある(f, k〜m)。舷は上部では狭いが、基部では大きく広がっている。茎葉の透明細胞には背面上部から中央部にかけて糸があり、偽孔もみられ、腹面上部には明瞭な偽孔や孔がある(n〜p)。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉上半、(n) 茎葉背面上部、(o) 茎葉背面中央、(p) 茎葉腹面上部、(q) 開出枝の葉、(r) 開出枝の葉:腹面、(s) 開出枝の葉先端部、(t) 開出枝の葉:背面上部、(u) 同前:背面中央、(v) 同前:腹面上部、(w) 同前:腹面中央、(x) 枝葉の横断面

 枝葉は先端部がやや鎌状に曲がった披針形で、開出枝の葉は長さ3.5〜5.0mm(q, r)、下垂枝の葉は長さ2.2〜3.5mm(y)。いずれの枝葉も先端部は尖り数個の歯がある(s, z)。開出枝の透明細胞背面にはほとんど孔はなく、多数の糸とわずかに偽孔がある(t, u)。開出枝の透明細胞腹面には多くの偽孔とわずかに貫通する孔がある(v, w)。開出枝も下垂枝も、葉の横断面で葉緑細胞は台形〜樽型で背面側に広く開く(x)。下垂枝の葉でも透明細胞の様子は、開出枝のそれと似通っているが、腹面側の孔がより顕著となる(aa〜ad)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(y) 下垂枝の葉、(z) 下垂枝の葉先端部、(aa) 下垂枝の葉:背面上部 、(ab) 同前:背面中央、(ac) 同前:腹面上部、(ad) 同前:腹面中央

 枝葉の先端が狭く鋭頭で、葉の横断面で葉緑細胞が背側により広く開き、茎葉の舷は基部で広がり、乾燥すると枝葉の縁が波うつことから、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata のミズゴケに間違いない。平凡社図鑑のハリミズゴケ節の検索表をみると、茎葉の先端は鋸歯状で、枝の表皮細胞のレトルト細胞は首が短く、茎葉は二等辺三角形で大きく、枝葉先端部の透明細胞背面には偽孔しかないことから、すんなりとハリミズゴケ S. cuspidatum に落ちる。図鑑の種の解説および滝田(1999)の種の解説をよむと、観察結果とほぼ一致する。