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[標本番号:No.748   採集日:2009/09/20   採集地:福島県、南会津町]
[和名:イトササバゴケ   学名:Calliergon stramineum]
 
2009年11月9日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) アオモリミズゴケに絡みついた植物体、(b, c) 標本、(d) 乾燥状態、(e) 水で戻した標本、(f) 茎と茎葉、(g〜j) 茎葉、(k, l) 仮根を着けた葉

 手元残っているコケ標本は今現在ミズゴケばかりなのだが、標本No.747(覚書非掲載:アオモリミズゴケ)に細く繊細なコケが多量に付着していた。No.747からほとんど分別して取り分けたはずだったが、一部がまだ残っていた(a)。これを標本No.748として観察することにした。
 植物体は半ば水没したアオモリミズゴケと絡み合って混生していた。茎は長さ6〜10cm、わずかに枝分かれし、葉を含めた茎の幅は2mmほどで、乾燥しても葉が縮れたり茎に密着することはない(b〜e)。茎葉は長卵形〜楕円状披針形で凹み、長さ1.4〜2.0mm、円頭でほぼ全縁。中肋は細く、葉先にまでは達しない。葉の基部はやや下延する。葉先に仮根をつけた葉がある。
 葉身細胞は線形で、長さ50〜70μm、幅3〜5μで、やや厚壁(n)。葉先付近には、短くてやや幅広の矩形〜菱形の細胞があり(o)、翼部の細胞は大型薄膜で透明(p)。葉の横断面で中肋にはステライドもガイドセルもない(q, r)。枝葉は長さ1.1〜1.6mmとやや小形で、形や葉身細胞、中肋などの様子は、茎葉のそれらと変わらない。茎の横断面で、弱い中心束があり、表皮細胞は小形でやや厚壁(s, t)。偽毛葉は小葉状(u)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 葉の上部、(n) 葉中央の葉身細胞、(o) 葉先の葉身細胞、(p) 葉の翼部、(q) 葉中央付近の横断面、(r) 葉基部近くの横断面、(s, t) 茎の横断面、(u) 偽毛葉、(v, w) 葉基部下延の様子、(x) 葉先の仮根

 葉が小さくやや透明であるため、何枚かを並べて撮影したところコントラストが弱くはっきりしない(g)。そこで、ミズゴケ観察で常用するサフラニンで染めてみた(i, j)。さらに、葉基部の下延具合もサフラニンで染めるとより明瞭に捉えることができた(v, w)。

 この蘚類は以前にもミズゴケ類に多量に付着してきた。観察の結果ササバゴケ属 Calliergon までは判明していたが、それ以上は探索せず標本としても残さなかった。そういったことがこれまでに何度もあったので、今回は新たに標本番号を与えて詳しく観察してみた。
 葉先の円頭と、先端から仮根をのばした葉が印象的だった。平凡社図鑑でササバゴケ属の検索表にあたると、イトササバゴケ C. stramineum に落ちる。種の解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。図鑑には「湿地に群生する」とあるが、純群落をなしている姿にはであったことはない。今回の標本も、すべては採取したアオモリミズゴケに絡みついていたものばかりだった。