Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.791   採集日:2009/10/14   採集地:秋田県、東成瀬村]
[和名:ウカミカマゴケ   学名:Drepanocladus fluitans]
 
2009年11月24日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(a, b) 採取標本、(c) 乾燥時、(d) 湿時、(e) 葉、(f) 葉:葉先に仮根がついたもの

 10月に秋田県、岩手県、宮城県などで採集したミズゴケに同じような姿形の繊細な蘚類が絡みついていた。標本No.779 (ヒメミズゴケ:岩手県一関市、覚書非掲載)やNo.775 (サンカクミズゴケ:秋田県鹿角市、覚書非掲載)をはじめ、5〜6点の標本に混生して絡みついていた。
 いずれもカギハイゴケ属 Drepanocladus の蘚類だったが、最も多かったのがウカミカマゴケ D. fluitans だった。生態写真は撮影していないし、標本として残すには少数だったりしたこともあって、これまではほとんどは処分してしまっていた。標本No.787を観察しようと標本袋を開くと、かなりまとまった数のカギハイゴケ属が絡みついていた。調べてみるとほとんどがウカミカマゴケのようだ。そこで、新たに標本番号No.791を立てて観察し標本として残すことにした。

 いずれもほぼ水没状態のミズゴケの茎に絡みついていた。茎は褐色で不規則に分枝する。茎の横断面で中心束があり、表皮は小さな細胞からなっている(p, q)。乾燥すると葉がやや縮れるが、茎に密着したり巻縮したりはしない(b, c)。なお標高は約1,100m。
 葉は卵状披針形で、長さ2.4〜2.7mm、葉上半は次第に細くなり、葉先は軽く尖り、ときに葉先から仮根を伸ばす(e〜h)。葉先を拡大してみると、先端部は小さな円頭となっている(j)。葉縁はほぼ全縁か非常に微細な歯がある。中肋は弱く、葉長の3/4あたりで消える。
 

 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(g, h, i) 葉、(j) 葉の先端部、(k, l) 葉身細胞、(m) 葉頂部、(n) 翼部、(o) 葉の横断面、(p) 葉と茎の横断面、(q) 茎の横断面、(r) 葉先端部の仮根

 葉身細胞は線形で、長さ50〜110μm、幅6〜8μm(k, l)、平滑〜やや凸状で膜はやや厚い。葉頂部では菱形〜長菱形で、葉身中央と比較して短く幅広(m)。翼部はあまり発達せず、やや大形で矩形の細胞が並ぶ(n)。葉の横断面で中肋にはステライドやガイドセルはない(o, p)。

 本標本を採集した地点とは別だが、栗駒山周辺には湿地や泥炭地が多い。中にはウカミカマゴケという名称を記した看板を掲げた泥炭地もある。この泥炭地には池や小沢があり、それらの底には無数のウカミカマゴケが生育していた。「泥炭地」にはウカミカマゴケが作った泥炭層が露出していて観光名所のひとつとなっている。