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[標本番号:No.833   採集日:2010/01/05   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:ツヤゴケ属   学名:Entodon sp.]
 
2010年1月8日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 採取標本、(c) 乾燥時、(d, e) 葉、(f) 葉の上半、(g) 葉の下半、(h) 葉身細胞、(i) 葉先端、(j) 翼部、(k) 葉の横断面、(l) 枝の横断面

 今週、東京都奥多摩町の日原鍾乳洞近くの白妙橋脇に屹立する石灰岩壁を訪れた。岩登りの練習場となっていて、登攀ルートに沿ってピトンやボルトが残っている(alt 530〜600m)。この石灰岩壁周辺でいくつかのコケを採取した。今朝はそのうちの一つを観察した。
 石灰岩壁をタチヒラゴケが層をなして覆っていた。その層の上にツヤゴケ科 Entodontaceae あるいはサナダゴケ科 Plagiotheciaceae と思われる蘚類が扁平で光沢のあるマットを作っていた(a)。一次茎は細く、タチヒラゴケと混在しながら岩を匍い、少し太い二次茎が斜上し、枝をやや密に樹状にだす(b)。葉は扁平につき、乾燥しても葉が縮れたり枝に密着することはない。
 葉は広卵形〜卵形で長さ1.8〜2.2mm、先端はやや急に細くなって尖る(d, e)。側方からでる葉はやや非相称だが、背方からでる葉は相称。葉縁はほぼ全縁だが、上半部の縁には微細な歯がある(f)。中肋は弱く二叉して短い(e, g)。葉の基部はほとんど茎に下延しない。
 葉身細胞は長い六角形〜線形で幅5〜8(10)μm、長さ60〜80μm、薄膜で平滑(h)。葉頂付近では幅広で短めとなり(i)、翼部には方形の細胞が1層にならぶ(j)。茎や枝には偽毛葉はなく、横断面で中心束があり、表皮は厚膜で小さな細胞からなる(l)。

 朔をつけた個体は見当たらなかった。無性芽らしきものもなかった。細かくみていくうちにサナダゴケ科ではなさそうだという感触をえた。となると、ツヤゴケ属 Entodon が疑われる。平凡社図鑑でも保育社図鑑でも、ツヤゴケ属の検索表は朔をつけた個体を基準につくられていて、そのままでは検索を続行できない。
 葉を扁平気味につけ、葉先が急に細くなって尖り、翼部に方形の細胞が並ぶ、などを基準に図鑑に掲載されている種の解説を読み進めていったが、該当する種がみつからない。あるいはツヤゴケ属ではないのかもしれないが、現時点ではツヤゴケ属の不明種として取り扱っておこう。