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[標本番号:No.835   採集日:2010/01/05   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:ホソヒラゴケ   学名:Neckera goughiana]
 
2010年1月10日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 標本、(c) 乾燥時、(d) 湿時、(e, f, g) 葉、(h) 葉の上部、(i) 葉の中央部、(j) 葉の下部 、(k) 葉の翼部、(l) 茎の横断面

 東京都奥多摩町の日原鍾乳洞近く、石灰岩地で岩から樹幹にかけてヒラゴケ科 Neckeraceae らしき蘚類がまばらについていた。樹幹基部についていた群れは純群落に近かったが(a)、石灰岩上ではタチヒラゴケ Homaliadelphus targionianus やリボンゴケ Neckeropsis nitidula などと複雑に絡み合って混生していた。
 一次茎は樹幹や岩をはい、二次茎は斜上し、不規則にやや羽状に扁平に分枝し、葉にツヤはない(b)。乾燥すると枝がやや反り返るが、葉の広がり具合などは、乾いても湿っていてもほとんど変わらない(c, d)。枝葉は長さ1.2〜1.5mm、長卵形〜長楕円形で横しわはなく、光沢はない。葉の上半部の縁には歯がある。中肋は葉の中程を越えたあたりで消える。二次茎の葉は、枝葉と比較して幅がやや狭く、枝葉よりやや長い。
 葉身細胞は二次茎の葉も枝葉も同様なので、ここでは枝葉について記す。枝葉の葉身細胞は狭六角形〜紡錘形で、葉上部では長さ15〜25μm(h)、葉の中程では20〜30μm(i)、葉の下部では30〜45μm(j)、いずれも薄膜で平滑。翼部はあまり明瞭には分化せず、方形〜矩形の細胞列が並ぶ(k)。葉の横断面で中肋にはステライドもガイドセルもない。茎の横断面に中心束はなく、表皮は厚膜の小さな細胞からなる(l)。

 ヒラゴケ属 Neckera の蘚類だと思う。平凡社図鑑の検索表は朔をつけたものを標準に書かれているので、そのままではたどれない。朔柄が長いと仮定して検索すると、該当する種はない。そこで、朔柄は短いと仮定して検索した。二次茎の葉は茎に密着して扁平、葉に横しわはない。その後は素直に検索表に従うとホソヒラゴケ N. goughiana に落ちる。種の解説を読むと、おおむね観察結果と符合する。
 ホソヒラゴケといえば、一昨年12月に識者の方のアドバイスを受けて種名にまで達した標本No.569がある。念のためにこの標本と照合してみた。同一種と見なしてよさそうな気がする。