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[標本番号:No.836 採集日:2010/01/05 採集地:東京都、奥多摩町] [和名:イヌケゴケ 学名:Schwetschkeopsis fabronia] | |||||||||||||
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奥多摩の石灰岩地(alt 530m)で樹幹に小さなコケがややまばらに多数ついていた(a, b)。茎は樹幹をはい、不規則やや羽状に水平に分枝し、枝はやや斜上し、乾くと葉が茎に密着気味となって、枝が軽く湾曲する(c, d)。湿ると葉をやや展開させる(f)。 茎葉は長さ0.6〜0.8mm、広披針形〜卵状披針形で、葉頂は漸尖する。葉縁には細胞境界が突起となって小さな歯を作っている(o)。中肋は弱くかすかに二叉するが、おおくの葉では中肋の有無は不明瞭(g, i)。茎葉の葉身細胞は長楕円形〜楕円状線形で、長さ20〜35μm、幅6〜8μm、やや厚膜で背面上端の縁に小さな突起がある。翼部はやや濃色で明瞭な区画をなし、方形の細胞が列をなす(i)。枝葉は長さ0.3〜0.5mmで、形や葉身細胞の様子などは茎葉と同じ(j, k, l)。茎の横断面に中心束はなく、表皮は厚膜でやや小形の細胞からなる(p, q)。 |
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茎葉や枝葉をみた当初は、中肋があるようには見えなかったが(g, j)、葉の基部近くで横断面を切り出してみると、明瞭に中肋が2本あることがわかった(p, r)。あらためて葉をよくみると、非常に弱い二叉する中肋をもったものがいくつもあった。また、葉背面の微細な突起は、葉を斜めから見たり(m)、合焦位置を変えながら観察すると明瞭に捉えられる(n)。葉縁の微歯の形は特徴的な姿をしている(o)。 コゴメゴケ科 Fabroniaceae イヌケゴケ属 Schwetschkeopsis の蘚類だろう。平凡社図鑑には「日本産2種」とあるが、検索表からはどちらなのかちょっとわかりにくい。標本No.836は枝がやや斜上しており、乾くと枝先がほんのわずか湾曲し、葉に2叉する弱い中肋があることなどから、S. fabronia ではなく、オオヒメヒナゴケ S. robustula とするのが妥当と考えた。
[修正と補足:2010.01.21]
この標本は当初イヌケゴケとしてアップする予定だった。平凡社図鑑やNoguchi(Part4 1991)を見る限り、乾燥時の枝振りと葉の向き、葉の尖り方と縁の反曲具合など、観察結果の多くはイヌケゴケを示唆していた。葉に中肋があるようには見えなかった。 |
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改めて標本を取り出して乾燥時の枝葉の状態などを再確認した。乾湿時における枝や葉の様子や、葉に中肋があるや否やも再確認してみた(s〜x)。中肋の有無は不明瞭なので基部横断面を切り出してみた。結果は、十数枚の葉のうち数枚に中肋がみられた。 上に3枚アップした葉(v, w, x)にはいずれも横断面で中肋を確認できた。ちょっとみたところ、これらの葉に中肋があるようにはみえない。したがって、このような葉の基部横断面を切り出そうとは思わない。そこで多くの文献に「(イヌケゴケは)中肋を欠く」と記されてきたが、実はイヌケゴケには確認困難な不明瞭な中肋をもつ葉がかなりあるのではないだろうか。 「内朔歯の間毛」の有無を確認できれば、はっきりさせることができるのだろう。中肋の件を上記のように捉えると、その他の多くの形質状態はイヌケゴケを示唆している。 コメントありがとうございます。 |
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