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[標本番号:No.851   採集日:2010/02/21   採集地:千葉県、鋸南町]
[和名:クシノハゴケ   学名:Ctenidium capillifolium]
 
2010年3月10日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e, f, g) 茎葉、(h) 茎葉:葉身細胞、(i) 茎葉:先端部、(j) 茎葉:基部、(k, l) 枝葉、(m) 枝葉:葉身細胞、(n) 枝葉:先端部、(o) 枝葉:基部、(p) 茎の横断面、(q) 葉の横断面、(r) 茎の表面

 先月21日千葉県南房総の鋸山近くで、岩に着いていたコケを採集した(alt 330m)。なかなか観察する時間がとれなかったが、ようやく観察することができた。
 茎は岩をはい不規則羽状に枝をだし、葉を密につける。葉の姿は乾燥時も湿時もあまり変わらず、茎葉は茎に対して直角近くまで、枝葉は枝に対して60〜80度くらいまで開出する(c, d)。枝は葉を含めて幅1.0〜1.5mm。茎の横断面で表皮細胞は厚膜で小さく、中心束がある(p)。
 茎葉は、長さ1.3〜1.8mm、下部が卵形〜三角形で、急に針状に尖って長く伸び、最広部で幅0.5〜0.6mm、基部は心臓形でやや下延する(f, g, j)。葉縁の全周にわたって細かい歯があり、中肋は2本でごく短くほとんど目立たたない。葉身細胞は線形で、長さ35〜50μm、幅4〜6μm、平滑でやや厚膜(h, q)。翼部はあまり発達せず、矩形〜方形の細胞が並ぶ(j)。
 枝葉は長さ1.0〜1.6mm、長卵形の基部から漸尖し、最広部で幅0.4〜0.5mm、基部はやや下延し、葉の全周に渡って微歯がある。中肋は弱く短いものが2本あるが、目立たない(k, l)。葉身細胞や基部の様子は茎葉とほぼ同様(m, n, o)。偽毛葉の有無や形はよく分からない。

 クシノハゴケ属 Ctenidium の蘚類だと思う。保育社図鑑からは、クシノハゴケ C. capillifolium に近いと思われるが、コクシノハゴケ C. hastile にも近い要素がある。それでも解説をよく読むと、クシノハゴケに近い。一方、平凡社図鑑からは、クシノハゴケが浮かび上がる。
 平凡社図鑑の検索表によればクシノハゴケは「茎葉の葉身部は三角形で非相称」、コクシノハゴケは「茎葉の葉身部は三角形〜卵形で相称」という。一方保育社図鑑の検索表では、クシノハゴケは「卵形、または広い卵形」、コクシノハゴケは「下部はほぼ三角形」となっている。
 本標本の茎葉は、葉身部は三角形で非相称である(f, g)。しかし、平凡社図鑑の検索表にあるような「葉先はこより状にねじれる」葉はほとんど見あたらない。さらに、両図鑑ともにコクシノハゴケの茎葉は「鎌状に曲がるか反り返る」とあるが、本標本の茎葉を見る限り、「鎌状に曲がるか反り返る」ようには見えない。ただ、茎葉の長さは短めで、幅も図鑑に記述された数値よりずっと小さい。Noguchi(Part5 1994)からは、コクシノハゴケよりもクシノハゴケに近いと思われる。