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[標本番号:No.0910   採集日:2010/05/02   採集地:岡山県、高梁市]
[和名:ジムカデゴケ   学名:Didymodon rigidicaulis]
 
2010年5月7日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
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(f)
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(g)
(g)
(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a, b) 植物体:左半は湿時 右半は乾燥時、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h, i) 葉、(j) 葉のKOH反応、(k) 葉身細胞、(l) 葉の先端、(m) 葉の横断面、(n, o, p) 中肋部の横断面、(q, r) 茎の横断面

 岡山県高梁市の磐窟渓の石灰岩地帯で採取したセンボンゴケ科 Pottiaceae の蘚類を観察した。半日陰の石灰岸壁や石灰岩の砂利上に群生していた(alt 460m)。植物体は褐色を帯び、茎は高さ1〜2.5cm、ゴワゴワして硬い感触で、湿ると葉が背側に反り返り、乾燥すると葉先が上側に向き軽く捻れて葉に接する。
 葉は卵形の広い基部から披針形となり、長さ1.5〜2.0cm、全体が弓なりに背側に反り返り、葉下部の縁は反曲する。中肋が葉頂近くまで達し、中肋を軸として竜骨状に折りたたまれる。葉身細胞は丸みを帯びた多角形で、長さ8〜12μm、厚膜で表面に複数の顕著な乳頭がある。中肋背面の表皮細胞にも葉面と同じような形の乳頭がある。葉の下部〜基部の葉身細胞では乳頭のないものがあり、中肋背面はほぼ平滑。葉のKOH反応は赤色。葉の横断面で中肋にはガイドセルがあり、葉の基部近くではステライドも見られる。茎の横断面には弱い中心束があり、表皮は厚壁の小さな細胞からなる。

 朔をつけた個体は見あたらなかった。また、葉腋毛の有無は確認できなかった。朔を観察できないので、保育社の検索表をそのまますんなりとたどることはできない。「・・・ではない」法で検索表をたどるとネジクチゴケ属 Barbula に落ちる。ジムカデゴケ B. reflexa の解説を読むと観察結果とほぼ一致する。ジムカデゴケは平凡社図鑑ではフタゴゴケ属 Didymodon となっていて、学名もD. rigidicaulis となっている。観察結果は平凡社図鑑の解説ともよく符合する。
 保育社図鑑に掲載のジムカデゴケの学名 Barbula reflexa を Iwatsuki(2004)の "Catalog" で引くと、"= Didymodon ferrugineus" となっている。ついで、Didymodon ferrugineus を引くと、"Syn. Didymodon rigidicaulis" とあって「ジムカデゴケ」の和名が与えられている。さらに、"Didymodon rigidicaulis " は "Didymodon ferrugineus " のシノニムとなっていて、何ともややこしい。ここでは、平凡社図鑑にしたがって D. rigidicaulis を採用した。