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[標本番号:No.0907   採集日:2010/05/02   採集地:岡山県、高梁市]
[和名:ミヤマハイゴケ   学名:Eurohypnum leptothallum]
 
2010年5月13日(木)
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h, i) 枝葉、(j) 枝葉の葉身細胞、(k) 枝葉の翼部、(l) 枝葉の先端、(m) 枝葉の横断面、(n) 枝葉翼部の断面、(o) 枝の横断面、(p) 若い枝の断面、(q, r) 偽毛葉

 岡山県高梁市にある神社で、よく日が照る花崗岩の石碑に赤褐色を帯びたハイゴケ科の蘚類が匍うように広がっていた(alt 440m)。茎は不規則に分枝し、長さ3〜8mmの枝を出す。枝は斜上ないし直上に立ち上がる。葉は乾燥すると覆瓦状に茎に接し、湿ると緩く展開する。乾燥しているとき、枝の幅は葉を含めて0.6〜1.2mm、湿ると1.0〜1.5mmとなる。
 枝葉は卵形で凹み、長さ1.1〜1.5mm、葉先は急に細くなって鋭頭、葉先はあまり曲がらず、葉上部の縁には微細な歯がある。中肋は不明ないし二叉する短いものがある。葉身細胞は線形で、長さ40〜75μm、幅4〜5μm、平滑でやや厚膜。翼部には丸みを帯びた方形の細胞が8〜10列ほど並び、翼部の縁には特に長く連なる。葉の横断面で、翼部の細胞は葉身部のそれよりずっと厚みがある。茎や枝の横断面には弱い中心束があり、表皮細胞は厚膜で小さい。若い枝では表皮細胞はまだ膜があまり肥厚していない。偽毛葉は糸状。

 茎葉の多くが崩れていた。茎葉は枝葉と同じ形で、若干大きい。朔をつけた個体はみあたらなかった。採取した個体の大半は非常に短く曖昧な中肋をもっているが、ほとんど中肋の見あたらない葉も多かった。中肋を含む断面を切り出そうという試みはすべて徒労に終わった。いつも思うことだが、顕微鏡で偽毛葉を明瞭に捉えて撮影することは至難の業だ。茎や枝を縦に薄切りして撮影すればよいのだろうが、これがなかなか難しい。
 保育社図鑑の検索表をたどると、朔の様子が不明なのですんなりとは行かないが、葉はほぼ左右相称、茎葉と枝葉とはほぼ同じ形、体は小形で、葉の翼部が明瞭に分化し、偽毛葉があることなどから、キヌタゴケ属 Homomallium とミヤマハイゴケ属 Eurohypnum が候補に残る。偽毛葉があること、中肋が不明瞭ないし非常に短いこと、葉身細胞が長いこと、翼部の細胞の様子などから、キヌタゴケ属ではなく、ミヤマハイゴケ属が残る。平凡社図鑑の検索表からも、やはりミヤマハイゴケ属となり、この属では日本産1種とあり、ミヤマハイゴケ E. leptothallum だけが掲載されている。種の解説を読むと、観察結果とほぼ符合する。