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[標本番号:No.0887   採集日:2010/04/30   採集地:岡山県、新見市]
[和名:ヒメクジャクゴケ   学名:Hypopterygium japonicum]
 
2010年5月23日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a) 宇山洞入口、(b) 植物体、(c, d) 背面、(e, f) 腹面、(g, h) 側葉と腹葉、(i) 側葉上半、(j) 側葉下半、(k) 側葉中央部の葉身細胞、(l) 側葉の横断面、(m) 枝の横断面、(n) 朔歯、(o) 外朔歯、(p) 外朔歯基部、(q) 内朔歯、(r) 内朔歯基部

 4月30日に岡山県新見市の鍾乳洞入口付近の石灰岸壁でクジャクゴケ属 Hypopterygium の蘚類を採取した。鍾乳洞は宇山洞といって岡山県の天然記念物に指定され、入洞には事前に許可をとる必要がある(a)。入口をやや入ると地下から冷気が漂ってくる(alt 415m)。
 側葉、腹葉の中肋の様子、側葉中央付近の葉身細胞の大きさ、朔柄の色などから、クジャクゴケ H. fauriei に間違いなさそうだ。複数個体の茎から複数の朔を伸ばしていたが、いずれも、老熟したものばかりで、蓋などはすでになく、外朔歯の先端もほとんど崩れて失われていた。
 さらに石灰微粒子による汚れがひどく、検鏡にあたってもかなりの障害となった。葉の画像や、葉の横断面の写真などはまともなものが撮れなかった。そのため、覚書にアップするのはやめようかとも思ったが、とりあえず文字による記述はなしで、画像だけをアップすることにした。なお、宇山洞入口の外壁や周辺の石灰岩壁では他にもいくつものコケを観察することができた。

[修正と補足:2011.1.1]
 2010年10月に四国の面河渓で採取したクジャクゴケを観察していて、本標本No.887の同定が誤っていることに気づいた。そこでヒメクジャクゴケと訂正した。
 あらためて乾燥標本を水で戻してみて、観察し直しその画像を下記に掲載した。おもに、葉の中肋および歯のつきかたと葉身細胞の大きさを、二つの標本(No.604、No.887)を比較しながら再検討した。画像は上段に標本No.604を、下段に標本No.887を配置した。
 

 
 
(604a)
(604a)
(604b)
(604b)
(604c)
(604c)
(604d)
(604d)
(604e)
(604e)
(604f)
(604f)
(887a)
(887a)
(887b)
(887b)
(887c)
(887c)
(887d)
(887d)
(887e)
(887e)
(887f)
(887f)
(604a) 水で戻した標本、(604b) 側葉と腹葉、(604c) 側葉の上半、(604d) 葉身細胞、(604e, 604f) 腹葉; (887a) 水で戻した標本、(887b) 側葉、(887c) 側葉の上半、(887d) 葉身細胞、(887e, 887f) 腹葉

 これをみると、No.604の側葉では中肋が葉頂部からかなり下で消えている。一方、No.887の側葉では、いま少し葉頂部の近くまで達している。側葉の中肋を軸に幅広側の葉縁にある歯は、No.604では葉の下半部にまであり、No.887では上半部の途中までしかない。
 両者の側葉なり腹葉を、同倍率の対物レンズで見ると細胞が網目のように見えるが、その網目の粗さが明らかに違うことがはっきり分かる。No.604では網目が大きく荒いが、No.887では網目が小さく目が詰んでいるように見える。これは葉身細胞の大きさが明らかに違うからだ。そこで、葉身細胞の大きさを計測すると、No.604では25〜45μm、一方No.887では15〜25μmとなる。
 保育社や平凡社図鑑の説明を読むと、No.604はクジャクゴケの特徴がみられ、No.887はヒメクジャクゴケの特徴がみられる。なお、腹葉の中肋の長さはあまり安定した形質ではないようだ。