Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.0885   採集日:2010/04/30   採集地:岡山県、新見市]
[和名:イシバイヤナギゴケ   学名:Amblystegium calcareum]
 
2010年6月5日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a) 宇山洞:内部からた入口、(b, c) 植物体、(d) 標本:乾燥時、(e) 標本:湿時、(f) 乾燥時、(g) 湿時、(h) 茎葉と枝葉、(i) 茎葉、(j) 茎葉の葉身細胞、(k) 茎葉翼部、(l) 茎葉先端、(m) 茎葉の横断面、(n) 枝葉、(o) 枝葉の葉身細胞、(p) 枝葉先端、(q) 枝葉翼部、(r) 茎の横断面

 4月末に岡山県新見市にある鍾乳洞、宇山洞入口付近の湿った石灰岩壁についていた蘚類の二つ目を観察した(alt 410m)。植物体は繊細で、茎は岩を匍い短い枝を出し、枝は斜上する。葉を含めた枝の幅は0.5〜1.2mm、乾燥しても葉は枝に接することなく、展開したまま。茎の表面には毛葉や偽毛葉はみられない。
 茎葉は三角形状卵形の基部から披針形に延び、先端は鋭頭で、長さ0.8〜1.1mm、葉の縁は全周にわたって微細な鋸歯がある。中肋は太く、葉長の4/5あたりまで達するが、葉頂には届かない。葉身細胞はやや扁平な六角形で、長さ12〜20μm、壁は薄く、葉縁では矩形から菱形。翼部の細胞はやや大きめの矩形の細胞が並ぶ。茎葉の横断面で、中肋にはガイドセルやステライドは見あたらない。枝は、茎葉よりやや細めで、長さ0.7〜1.0mm、葉の周囲の微歯や翼部、中肋などの様子は茎葉とほぼ同様。茎の横断面には中心束があり、表皮細胞は厚膜で小さい。

 ヤナギゴケ科 Amblystegiaceae の蘚類だろう。平凡社図鑑の検索表をたどると、シャグマゴケ属 Cratoneuron、ヤナギゴケ属 Leptodictyum、ヒメヤナギゴケ属 Amblystegium が候補に残る。植物体が繊細で毛葉がなく、葉身細胞がやや短いことなどからシャグマゴケ属は排除した。葉身細胞の形と長さからヤナギゴケ属も候補から外せそうだ。残るのはヒメヤナギゴケ属となる。
 属から種への検索表をたどると、翼部の細胞があまり明瞭な区画を作らないことから、ヒメヤナギゴケ A. serpens は外せそうだ。この属は日本産3種と記され、残りの2種とされるナミスジヤナギゴケ A. varium とイシバイヤナギゴケ A. calcareum については、検索表に名が掲載されてはいるが、種の解説はなく、検索の選択枝もわかりにくい。Noguchi (Part4 1991)にあたると、観察結果はナミスジヤナギゴケよりもイシバイヤナギゴケに近い。石灰岩壁に生育という環境もイシバイヤナギゴケを支持している。