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[標本番号:No.0886   採集日:2010/04/30   採集地:岡山県、新見市]
[和名:ツクシナギゴケ   学名:Eurhynchium savatieri]
 
2010年6月6日()
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
(d)
(e)
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(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a) 宇山洞、(b, c) 植物体、(d) 標本:乾燥時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g) 一次茎の葉と枝葉、(h) 一次茎の葉、(i) 一次茎の葉:葉身細胞、(j) 同前:翼部、(k) 同前:先端部、(l) 同前:横断面

 4月末に岡山県新見市の宇山洞入口付近(alt 410m)の石灰岩壁で採取した最後の蘚類を観察した。一次茎は石灰岩壁を匍い、そこから二次茎が伸び、不規則に枝を出す。分枝は羽状のものや樹状のものが混ざり合う。乾燥しても葉は展開したままで、縮んだり茎に接したりすることはなく、湿ると全体がやや扁平気味になる。
 一次茎の葉は卵状三角形(心臓形)の基部から広い披針形の頂部に続き、長さ0.6〜0.9mm、やや鋭頭、基部は広く延下し、全周に細かい歯があり、中肋が葉長の3/4〜4/5に達する。中肋背面の先端には1〜2個の歯がある。葉身細胞は細長い六角形〜線形で、長さ30〜45μm、幅4〜6μm、膜は薄く平滑、葉先では短く、葉の基部ではやや長くなる。翼部はあまり分化せず明瞭な区画は見られない。葉の横断面で中肋にはガイドセルやステライドは見られない。
 
 
 
(m)
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(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(m) 枝葉、(n) 枝葉背面の中肋先端、(o) 枝葉の葉身細胞、(p) 枝葉の翼部、(q) 枝葉の先端、(r, s) 枝葉の横断面、(t) 茎の横断面、(u) 枝の横断面

 二次茎の葉は枝葉をやや幅広にした形をしている他は、各形質の状態は枝葉と変わりないので、ここでは枝葉を取り上げた。枝葉は広い卵形で漸尖し、長さ0.8〜1.2mm、鋭頭、全周にわたって微細な歯がある。中肋は葉長の4/5に達するが葉頂には届かず、背面の先端には歯がある。葉身細胞は線形〜長い六角形で、長さ25〜45μm、幅4〜6μm、薄壁で平滑。一次茎の葉や二次茎の葉とほとんど変わりはない。葉の横断面をみると、葉の上部では背腹に中肋が膨らんでいるが、葉の下半では腹面側にはあまり膨らまずもっぱら背面側に膨らんでいる。茎や枝の横断面には中心束があり、表皮細胞は厚膜で小さい。

 アオギヌゴケ科 Brachytheciaceae ツルハシゴケ属 Eurhynchium の蘚類だろう。とりあえず、ツクシナギゴケ E. savatieri としたが、発生環境などを考えると別の種かもしれない。特に、ツクシナギゴケモドキ E. hians の可能性も否定できないように思える。