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[標本番号:No.0939   採集日:2010/05/16   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:ハリスギゴケ   学名:Polytrichum piliferum]
 
2010年7月17日()
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a) 植物体:雌株、(b, c) 植物体:雄株、(d) 標本:乾燥時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h) 葉、(i) 葉鞘部の葉身細胞、(j) 葉鞘部肩の葉身細胞、(k) 葉中央部背面の葉身細胞、(l) 葉先端の透明尖、(m) 葉の腹面、(n, o, p) 葉の横断面、(q) 薄板:葉中央上部、(r) 薄板:葉下部

 富士山の五合目付近の溶岩地にハリスギゴケが群落を作っていた。赤色の雄花盤が鮮やかだった。茎は高さ1〜3cm、下部には葉がほとんどなく、上部に集まってつき、枝分かれはほとんどない。雄株は雌株よりやや小さい。葉先からは長く透明な芒が伸び、肉眼では葉先から白毛がでているように見える。葉は乾くと茎に密着し、湿るとやや展開する。
 葉は芒を含めて長さ3.5〜5.0mm、卵形の基部から披針形に伸び、葉の腹面の大部分では薄板が縦に走り、葉縁は腹面側に折りたたまれて薄板を広く覆う。葉身上部では葉縁は腹面全体をほぼ覆い尽くす。透明な芒は長く、葉身長の1/3ほどあり、表面には歯があり、基部は褐色を帯びる。葉鞘部の葉身細胞は矩形で長さ35〜60μm、幅12〜20μm、鞘部肩では小さな楕円形となる。葉身部背面の細胞はやや短い矩形で、葉縁の細胞は小さな楕円形。葉の横断面で中肋部にはステライドがある。
 薄板は葉の下部では1〜3細胞高、中央部では4〜6細胞高、葉身上部では7〜9細胞高、頂端細胞は葉上半の横断面でフラスコ型、葉下半の横断面で凸状。薄板一枚を横から見ると、葉基部から葉身上部にかけて厚みが増し、頂端細胞の形は、葉基部では凸状、葉身上部ではフラスコ型となる。頂端細胞の形状はなめらかにフラスコ型から凸状に変化する。
 
 
 
(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(y)
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(z)
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(aa)
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(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(s, t) 茎の横断面、(u, v) 雌苞葉、(w) 雌苞葉下部の葉身細胞、(x) 雌苞葉上部の葉身細胞、(y) 雌苞葉上部の腹面、(z) 雌苞葉上部の横断面、(aa) 雌苞葉下部の横断面、(ab) 朔柄の横断面、(ac) 朔、(ad) 朔基部の気孔:頸の部分にある

 茎の横断面には中心柱があり、表皮細胞は明瞭には分化しない。雌苞葉は長さ7〜10mm、ほぼ矩形で葉身上部で三角形となりそこから長い透明な芒が伸びる。雌苞葉の下部〜中央部の葉身細胞は長い矩形〜六角形で、長さ90〜120μm、葉身上部では歪んだ長い六角形となる。雌苞葉腹面には目立ちにくい低い薄板があるが、最も内側の雌苞葉では薄板はない。
 朔柄は長さ1.5〜2.0cm。朔は円筒形で、フェルト状に密生した毛で覆われる帽をもち、顕著な4稜が見られる。朔の蓋は円盤の中央に小さな突起朔をつけたような形で、朔頸部の細くくびれた部分には気孔がある。

 茎の横断面をみると、まるで維管束をもった顕花植物を想起させられる。朔はすでに老熟したものばかりで、朔歯や胞子は確認できなかった。前々朔のどの部分に気孔があるのだろうかと気になっていた。すっかり乾燥した標本では朔の頸部の細くなったところを、上手く広げるのが難しかった。この部分を拡大して見ると、透明な気孔がいくつもあった。