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[標本番号:No.0962   採集日:2010/06/06   採集地:栃木県、日光市]
[和名:スギバミズゴケ   学名:Sphagnum capillifolium]
 
2010年8月7日()
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a, b) 採取標本、(c) 開出枝と下垂枝、 [以下サフラニン染色] (d) 茎と茎葉、(e) 茎の表皮、(f) 茎の横断面、(g) 枝の表皮、(h) 枝の横断面、(i) 茎葉と枝葉、(j) 茎葉、(k) 茎葉背面上半、(l) 茎葉腹面上部

 6月6日に日光市のやや乾燥気味の中間湿原(alt 1400m)でヒメミズゴケ S. fimbriatum に隣接して群れを作っていたミズゴケを観察した。生態写真は撮っていなかった。
 茎は高さ5〜10cm。開出枝に比較して下垂枝がやや長い。茎の色は緑色で、表皮細胞は矩形で穴はなく、横断面で表皮細胞は2〜3層。枝の表皮細胞でレトルト細胞の首は短く、横断面でレトルト細胞は2〜4列に並ぶ。
 茎葉は二等辺三角形で、長さ1.0〜1.2mm、先端に2〜3個の歯がある。茎葉の透明細胞には膜壁があり、中央部から上には背腹両面に糸があり、背面側には破れたような穴がある。茎葉の縁の舷は上部では狭いが、下部から基部にかけては葉幅の1/2を超える。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
(x)
(m) 枝葉、(n) 枝葉背面上部、(o) 枝葉背面中央、(p) 枝葉腹面上部、(q) 枝葉腹面中央、(r) 枝葉腹面中央部の縁、(s, t, u) 枝葉腹面先端、(v, w, x) 枝の横断面

 枝葉は卵状披針形で、長さ1.0〜1.3mm、乾燥しても縁が波打つことはない。枝葉背面の透明細胞には三日月形の貫通しない穴や、双子穴や三子孔があり、腹面の透明細胞には偽孔や糸があり、中央部の縁に近い透明細胞には貫通する穴がいくつもある。枝葉腹面頂部の細胞には穴がないが、中には亀裂状の穴をもった細胞もある。枝葉の横断面で、葉緑細胞は二等辺三角形で、腹面側に広く開いている。

 茎や枝の表皮細胞に螺旋状肥厚がないからミズゴケ節 Sect. Sphagnum ではない。また、枝葉の先端は鋭頭で、枝葉横断面で葉緑細胞は開いているから、キダチミズゴケ節 Sect. Rigida やキレハミズゴケ節 Sect. Insulosa ではない。茎葉は小さく、舷が基部で大きく広がっているから、ウロコミズゴケ節 Sect. Squarrosa でもない。枝葉の透明細胞の背側に小孔が一列に並ぶことはないから、ユガミミズゴケ節 Sect. Subsecunda でもない。枝葉は乾いても縁が波打つことはなく、横断面で葉緑細胞の底が腹面側に開いているからハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata でもない。残るのはスギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia だけとなる。
 平凡社図鑑のスギバミズゴケ節から種への検索表をたどると、スギバミズゴケ S. capillifolium が候補に残る。ただ、植物体には紫色を帯びたところはどこにもない。先にスギバミズゴケと同定した標本No.786とも比較してみたが、よく似てはいるが何となく違うようにも思える。おそらく典型的なものからはやや遠いのだろう。形質状態の判断次第では、ワラミズゴケ S. plumulosum の可能性も否定できない。