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[標本番号:No.0957   採集日:2010/06/06   採集地:栃木県、日光市]
[和名:エゾイトゴケ   学名:Anomodon rugelii]
 
2010年8月10日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
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(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
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(l)
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(m)
(m)
(n)
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(o)
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(p)
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(q)
(q)
(r)
(r)
(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h) 葉の基部、(i) 二次茎の葉[上] と枝葉[下]、(j) 二次茎の葉、(k) 枝の葉、(l) 葉身細胞、(m) 葉の先端、(n) 葉基部中肋の近く、(o) 葉基部の耳部、(p, q) 葉の横断面、(r) 茎の横断面

 手許のミズゴケ観察と同定作業が一通り終わったので、放置したままの標本にとりかかることにした。6月6日に日光市の鶏頂山登山道脇の樹幹に生育していたキヌイトゴケ属 Anomodon の蘚類を観察した(alt 1400m)。
 一次茎は樹幹を匍い、二次茎は2〜5cm、わずかに枝分かれする。乾くと葉は強く巻縮する。二次茎の葉は長さ2〜3mm、広い基部から細くなり舌状に伸び、先端は円状。葉の基部は耳状に下延する。中肋は葉頂下に終わる。枝の葉は二次茎の葉より若干小さく形はほぼ同様。
 葉身細胞は方形〜類円形で径8〜12μm、やや厚膜で、表面には背腹ともに多数の小乳頭があって暗い。葉の先端部の細胞は薄膜で表面は平滑。葉基部中央付近の葉身細胞は楕円形で、長さ25〜45μm、厚膜で平滑。葉翼部の細胞は葉身中央部の細胞とほぼ同じで、乳頭が少なく、やや大きい。葉の横断面で中肋にはステライドはない。茎や枝の横断面に中肋はなく、表皮は小形でやや厚膜の細胞からなる。

 保育社図鑑でキヌイトゴケ属 Anomodon の検索表をたどると、エゾイトゴケ A. rugelii に落ちる。葉基部が耳状に下延すること、乾燥すると葉がよく巻縮すること、葉身細胞に多数の小乳頭があることがポイントらしい。図鑑には「雌雄異株でよく朔をつける」とあるが、先の標本No.198も本標本も朔をつけた個体はみつからなかった。