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[標本番号:No.0969   採集日:2010/06/12   採集地:長野県、山ノ内町]
[和名:アミバゴケ   学名:Anastrophyllum michauxii]
 
2010年9月1日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 標本:乾燥時、(c) 標本:湿時、(d) 湿時、(e) 表側と裏側:表裏はない、(f, g) 葉、(h, i) 葉中央部の葉身細胞、(j) 葉基部の葉身細胞、(k) 花被、(l) 胞子体

 6月12日に長野県の志賀高原で出会ったきのこの観察をはじめた。大部分は採取したのち風乾して標本としてあった。しまった、と思った標本がいくつかあった。苔類を生かした状態で保存しておこなかったことだ。案の定、油体がすっかり消失していた。
 湿った岸壁に斜上するようについた植物体は、直射日光に照らされていたためか乾燥していて、ごくわずかに胞子体の名残が残っていた(a)。茎は長さ1〜1.2mm、わずかに分枝し、仮根は非常に少なく、背側と腹側の区別がない、というかいずれが背面か区別できない。多くは黄緑色だが褐色や緑褐色を帯びたものもある。写真(b), (c)は採集したその日のうちに撮影したものだが、今朝取り出した標本はほとんどが緑褐色〜赤褐色だった。
 葉はやや接してつき、水平からやや斜めに開き、内側にくぼみ、基部は茎を包み込んでいる。葉先は葉長の1/3〜1/4ほどまで二裂し、裂片はほぼ同大で、先は三角形となり、鋭く尖ったりやや丸みを帯びる。葉縁の片側が狭い幅に強く外曲する。複葉はない。
 葉身細胞は、葉中央部でやや扁平な多角形で、長さ10〜20μm、膜はやや波状となりかなり肥厚している。このため、トリゴンは非常に大きく、角隅は膨らみ、特異な形態をみせている。葉の基部では楕円形気味の細胞が増え、長さも30μmにまで達する。油体は不明。
 茎の長短に花被をつけた個体が多い。花被は円筒形で先端にわずかに襞がある。雌苞葉と思われる葉は、本体の葉より一回り大きく、先は深く二裂している。副雌苞葉はない。雄花らしきものをつけた個体や、無性芽をつけた個体は見あたらない。

 アミバゴケ属 Anastrophyllum の苔類ではないかと思う。葉が均等に二裂し、葉身細胞の膜が厚く波状となっていることなどから、アミバゴケ A. michauxii だろうと思う。ただ、アミバゴケとすると、植物体の大半で色が黄緑色であることや、無性芽が全く見つからないこと、など疑問も残る。