Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.1079   採集日:2010/10/11   採集地:高知県、本川村]
[和名:オオウロコゴケ   学名:Heteroscyphus coalitus]
 
2010年11月10日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a, b) 混生する植物体、(c) 標本、(d) 標本背面、(e) 標本腹面、(f) 腹面と仮根、(g) 腹面と腹葉、(h) 茎から切り離した左右の葉、(i) 葉身細胞、(j) 葉先の細胞、(k, l) 油体、(m) 腹葉と葉、(n) 腹葉、(o) 腹葉の歯、(p, q, r) 茎と葉の横断面

 10月11日に高知県本川村でコマチゴケ(標本No.1008)を採取したときに、混生していた苔類があった(alt 600m)。ちょっと見た目にはハネゴケ属 Plagiochila のようにみえた。しかし、ルーペで腹面をみると両側の葉が中央でつながりその中央に茎先方向に伸びる腹葉のようなものがあって(f, g)、あたかもマンタ Manta ray (オニイトマキエイ)を連想させるような形をしている。そこで、新たに標本番号No.1079を立てることにした。
 茎は長さ4〜6cm、葉を含めた幅は3〜4mmで、分枝は少ない。葉は瓦状に重なり、茎に対して斜めにつき、対生し、ほぼ長方形〜台形で、葉先に向かって狭くなり、葉先の両肩に3〜4細胞からなる細長く尖った歯がある。腹葉は離在し、幅はおよそ茎幅の1.5〜2倍で、狭い三角形の長い歯が4つあり、基部の両側は葉と繋がっている。
 つまり、水平に広がる左右の葉が、茎の腹面側の部分で繋がって一体化し、その中央部が腹葉となって茎先側に張り出している。したがって、どこまでが葉の基部でどこからが腹葉なのか判然としない。このため、腹葉の付近で茎の横断面を切り出すと、上の葉、下の葉、腹葉の三者が茎から出ている姿をみることができる(p〜r)。腹葉の基部には仮根が密集している。
 葉身細胞は多角形で、長さ35〜60μm、薄膜で平滑、トリゴンはほとんどない。葉身細胞は葉の縁ではやや小さい。油体は紡錘形で、各細胞に4〜8個あり、微粒の集合。

 葉が瓦状に重なり、対生する葉はほぼ長方形で、腹片は無く、腹葉と葉とが基部で癒合していることから、ウロコゴケ科 Geocalycaceae の苔類に間違いない。さらに仮根が腹葉基部から束になってでているから、候補は少数に絞られ、ほぼウロコゴケ属 Heteroscyphus に落ちる。属から種への検索表をみると、保育社図鑑からも平凡社図鑑からも、いずれもオオウロコゴケ H. coalitus に落ちる。種の解説を読むと観察結果とほぼ合致する。
 それにしても、この苔類では左右に広がる葉と腹葉の境界が不明瞭で、癒合部分はかなり幅広い。このため、どこまでを腹葉と捉えるかによって、その幅の数値は大きく変わりそうだ。それもあって、腹葉の幅の表現に「およそ茎幅の」と付加せざるを得なかった。