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[標本番号:No.1012   採集日:2010/10/11   採集地:高知県、本川村]
[和名:ヒロハヒノキゴケ   学名:Pyrrhobryum spiniforme var. bandakense]
 
2010年11月24日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
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(i)
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(j)
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(k)
(k)
(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(a) 植物体、(b) 標本:乾燥時、(c) 標本:湿時、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 葉、(g) 葉の上半、(h) 中肋背面の歯牙、(i) 葉身細胞、(j, k) 中肋横断面、(l) 葉の横断面、(m) 茎の横断面、(n, o) 苞葉、(p) 苞葉上部、(q) 苞葉中央部、(r) 苞葉下部

 高知県の自然公園の沢で、岩肌や沢底近くの落ち葉の堆積する小石にヒノキゴケ属の蘚類がついていた。流水を浴びるような位置に生育している姿は初めて見たので持ち帰っていた。
 茎は長さ4〜10cm、ごくわずかに分枝し、茎の中央部まで褐色の仮根に被われ、葉を密につける。葉は長さ8〜12mm、線状披針形〜線形で細く尖り、基部以外の葉縁は厚く複数細胞層となり双生の歯牙をつける。中肋は強く葉先に達し、背面には鋭い歯牙が並ぶ。葉身細胞は多角形で長さ5〜15μm、壁は厚く表面は平滑。葉の横断面で中肋は三角形で、背腹両面にステライドがよく発達している。葉の横断面で縁はT字形になっている。
 朔柄は茎の基部から出て長く、長さ5〜10mm、基部は赤褐色で次第に淡色となり上部では濃黄色。雌苞葉は卵形の基部から急に細くなって披針形に伸び、長さ2〜4mm、細くなった部分の縁には鋭い歯があり、中肋が葉先に達する。雌苞葉の葉身細胞は上部では方形〜矩形、中央部から下部では長い矩形となる。
 
 
 
(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(y)
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(z)
(z)
(aa)
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(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(ae)
(ae)
(af)
(af)
(s) 朔、(t) 朔と蓋、(u) 朔歯、(v) 口環、(w) 外朔歯、(x) 内朔歯、(y) 外朔歯下部、(z) 外朔歯中央部、(aa) 外朔歯上部、(ab) 内朔歯下部、(ac) 内朔歯中央部、(ad) 内朔歯上部、(ae) 朔基部の気孔、(af) 胞子

 朔は楕円体でほぼ水平に付き、非相称で、蓋には長い嘴があり、口環がよく発達している。朔歯は二重で、外朔歯は披針形。内朔歯には高い基礎膜があり、間毛と歯突起が伸びる。朔の基部には気孔がある。胞子は球形で径18〜22μm。

 朔柄が茎の途中からではなく、基部からでているのでヒノキゴケ Pyrrhobryum dozyanum ではない。また雌苞葉がやや長く、葉縁には鋭い歯牙があることからヒロハヒノキゴケ P. spiniforme var. bandakense となる。これまで見知っていたヒロハヒノキゴケに比べると、二つの点で違和感があった。一つは、発生環境。水しぶきを常に浴びるような場所にでていたことだ。今ひとつは背丈のバラツキが非常に大きく、大きなものでは茎の長さが10cmを超えていた。