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[標本番号:No.1014   採集日:2010/10/11   採集地:高知県、本川村]
[和名:ツリバリゴケモドキ   学名:Bryohumbertia subcomosa]
 
2010年12月7日(火)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h) 葉、(i) 養親子細胞:葉の肩から翼部上方、(j) 葉の基部、(k) 葉の先端、(l) 葉の横断面

 高知県本川村の自然公園で遊歩道脇の岸壁(alt 600m)にシッポゴケ科 Dicranaceae の蘚類がついていた。よく朔をつけ朔柄が強く曲がりくねっている姿が印象的だった。茎は葉を含めて高さ8〜12mm。葉は広卵形の基部から細くなって、線状披針形に長く伸び、長さ3〜6mm、葉先の縁を除いて全縁。葉先の縁には小さく顕著な歯がある。葉の中央部から下部の葉身細胞は矩形で、長さ20〜50μm、厚壁で平滑。中央から上部の葉身細胞は長さ15〜25μmとやや短い。葉基部の細胞は薄膜大形の矩形で赤みを帯びる。中肋は強く葉先にまで達し、葉の下部では葉幅の1/5〜1/3を、葉の中央部から上部では葉幅の2/3〜3/4を占める。葉の横断面で、中肋には顕著なガイドセルがあり、背腹両面にステライドがある。茎の横断面には弱い中心柱がある。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎の横断面、(n) 胞子体、(o) 朔、(p, q) 朔:帽と蓋、(r) 朔の帽、(s) 口環、(t) 朔歯、(u) 朔歯下半、(v) 朔歯上半、(w) 朔の基部、(x) 胞子

 朔柄は、長さ12〜15mm、黄色〜黄褐色で、乾燥時クネクネと曲がり、水に濡れると白鳥の首のように大きく湾曲する。朔は傾いてつき、非相称、長さ1mm前後。乾燥すると明瞭な縦皺ができる。長い嘴をもった蓋と僧帽状の帽をつける。帽の下縁からは房状の白毛がでる。朔本体と帽を含めると、長さ2mmほどになる。
 朔には口環があり、朔本体から簡単に分離する。朔歯は一重で、16枚からなり、それぞれは披針形で中程まで二裂する。朔歯表面の基部には縦条があり、上部には密に乳頭に被われる。朔歯裏面の下部も多くの乳頭に被われる。朔に気孔はない。胞子は球形で径18〜25μm。

 葉の基部が幅広く急に細くなって延びるものがある一方、葉の基部はやや広いだけで、そこからなめらかに披針形に延びる葉がある。苞葉では明瞭な鞘部を持ち、急に細くなって延びる。まだ見たことはないが、ヘビゴケ Campylopodium medium も朔が白鳥の首のように曲がり、似通った葉をもつという。しかしヘビゴケでは、翼部の細胞は分化せず、朔柄も長さ5mm前後と短かく、朔は垂れ下がり、朔の基部には気孔がある、という。これらは明らかに観察結果と異なる。
 かつて観察したツリバリゴケモドキ(標本No.372)では、口環を観察できなかったが、今回はよく観察することができた。口環は朔や蓋から分離しやすく、蓋を取り外した状態で朔の縁をみてもほとんど残っていなかった。しかし、蓋の縁をみると口環が多数残っているものが多かった。
 図鑑によれば、朔に気孔がない。念のために20個ほどの朔をていねいに観察してみたが、やはりいずれの朔にも気孔はみあたらなかった。