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[標本番号:No.1047   採集日:2010/10/14   採集地:高知県、香美市]
[和名:イトコミミゴケ   学名:Lejeunea parva]
 
2011年1月12日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 標本:半乾燥状態、(e) 標本:湿時、(f) 標本:背面と腹面、(g, h) 背面、(i, j) 腹面、(k) 腹面:腹葉を取り除いてある、(l) 葉と腹葉、(m) 葉:背片、(n) 腹片、(o) 腹葉、(p, q) 葉身細胞、(r) 茎の横断面

 昨年10月に高知県香美市の別府峡で採取したクサリゴケ科 Lejeuneaceae の繊細な苔類を観察した。チャック付きポリ袋に入れて保管しておいたのだが、採取からすでに3ヶ月ほど経過したこともあって、残念ながら油体はほとんど消失していた。小沢に近い渓谷の遊歩道脇、日陰の湿った岩の上についていた(alt 600m)。
 茎は長さ6〜12mm、葉を含めた幅は0.4〜0.6mm、枝分かれは少なく、細い紐状に見える。背片は倒瓦状にゆるく重なり、楕円形〜卵形、長さ約0.2mm、円頭で全縁。腹片は背片の1/2長、腹縁がやや内曲し、二つの歯牙があり、袋状をなす。キールは長く円弧を描く。歯牙細胞は楕円形のものが多い。腹葉は円形で、茎径の2.5〜3倍幅、長さは幅とほぼ同じ、1/3〜2/5までV字〜U字形に二裂し、裂片は三角形。葉身細胞は丸みを帯びた多角形で、膜は薄く、表面はほぼ平滑。トリゴンは全般的には小さいように思えるが、合焦位置や部位によってはやや大きくも見える。茎の横断面で表皮細胞は6〜9、髄部の細胞は5〜7つからなり、膜は薄い。

 採取後早い時期に観察しておかなかったことが悔やまれる。比較的緑色が残った葉を選んで葉身細胞を確認したが、明瞭に油体が残っている葉は見あたらなかった。また、葉身細胞の原形質が萎縮し始めたものがかなりあった。花被などをつけた個体はなかった。
 平凡社図鑑の属から種への検索表をたどってみた。本標本の腹葉は背片と比較したとき、意外と大きい。そこで、「腹葉は大きくて,葉とほぼ同大」とみれば、コミミゴケ L. compacta が候補にあがる。「腹葉は背片よりも明らかに小さい」とみれば、キコミミゴケ L. flava、ヒメコミミゴケ L. curviloba などが候補にあがる。しかし、トリゴンの大きさがよくわからず、油体の様子も分からない。何とも決め手に欠けるように思えて種名にまではたどり着けなかった。
 さらに、背片の形だが、腹片を伴う部分が大きくせり出しているため、全体が楕円形を二つ合わせたような形となっていて、その表現方法や長さの計測で戸惑った。結局、上記で背片の長さには、腹片を伴い袋状となった部分は考えずに、大きな楕円形部分の長径を示した。

[修正と補足:2011.1.18]
 イトコミミゴケ Lejeunea parva に修正した。先週13日に識者の方から、イトコミミゴケと思う、というコメントとその根拠を頂いていた。いくつかの資料に目を通してみて、確かにイトコミミゴケに間違いなさそうだと思うようになっていた。くびれたような形の背片は明らかに腹葉よりずっと大きい。したがって、「腹葉は大きくて,葉とほぼ同大」との判断は誤っている。したがってコミミゴケの可能性はないことになる。
 今朝ようやく時間がとれたので、再び標本を水で戻して再検討した。水に戻すと、葉全体が確かに背方に偏向する。この段階で検索表からの選択肢はごくわずかとなり、イトコミミゴケだけが候補に残る。葉身細胞表面のベルカについては、葉の横断面を切ってみてもはっきりしなかった。しかし、一般にベルカがある場合、細胞間の隔壁の表面にも一様に見られるとされるので、画像(q)からベルカがあると判断しても全く間違いとはいいきれないかもしれない。
 

 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(s) 再び水に戻した標本、(t, u) 腹葉を取り除いた腹面側、(v, w, x) 腹片

 クサリゴケの仲間では腹片の上縁にあるふたつの歯牙の観察が重要とされるので、あらためてこの部分を中心に撮影しなおした。結果は最初に掲げた画像(k, n)と今回新たに撮影した画像(t〜x)とは、ほとんど変わりない。第一歯牙と第二歯牙の両者を明瞭に区別できるような画像は結局撮影できなかった。ご指摘とコメントありがとうございました。