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[標本番号:No.1039   採集日:2010/10/14   採集地:高知県、香美市]
[和名:キヌヒバゴケ   学名:Dicradiella tricophora]
 
2011年2月8日(火)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f, g, h) 葉、(i) 葉の上半先端部、(j) 葉の下半部、(k) 葉身細胞、(l) 葉の翼部、(m) 葉の先端、(n, o, p) 葉の横断面:矢印は背面の小突起、(q) 枝の横断面、(r) 茎の横断面

 高知県の名勝である別府峡には石灰岩の渓谷が広がる。渓谷の側壁から長く垂れ下がった蘚類を観察した(alt 630m)。茎は糸状〜紐状で葉を丸く付け、葉を含めた幅は0.5〜0.8mm、随所から二次茎を伸ばす。二次茎および枝は、扁平に葉をつけ、葉を含めた幅は3〜4mm、先端部は細くなって紐状となる。乾燥しても葉はほとんど縮れず、湿時の姿はほとんど変わらない。
 二次茎や枝の基部の葉は、披針形で細長く、毛状でよじれて尖り、長さ3〜3.5mm、葉縁の上部は波打つ。一次茎の葉は茎に密着するように丸くつくが、葉の形は二次茎基部や枝基部の葉とあまり変わらない。葉の縁には上部から基部まで微細な歯があり、中肋はない。
 葉身細胞は、細長い六角形ないし紡錘形〜線形で、長さ70〜120μm、幅8〜10μm、薄壁。葉身細胞は背腹ともにほぼ平滑だが、背面の中央付近に小さな乳頭をもつ細胞が随所にある。翼部には方形の細胞が並ぶ。茎や枝の横断面には弱い中心束があり、表皮細胞は小形で厚壁。

 ハイヒモゴケ科 Meteoriaceae の蘚類だろう。平凡社図鑑の検索表をたどると、葉身細胞が平滑なものとしてサナダゴケモドキ属 Aerobryum があり日本産1種とある。ところが、サナダゴケモドキ A. speciosum には中肋があり、葉の形も異なる。
 本標本の葉身細胞の背面はほぼ平滑だが、わずかに乳頭をもつものがある。そこで、あらためて検索表の「葉身細胞にパピラがある」枝をたどると、茎葉の中肋がないことからキヌヒバゴケ属 Dicradiella に落ちる。これも日本産1種とあり、キヌヒバゴケ D. trichophora が掲載される。種の解説を読むと、「(葉身細胞は)中央にふつう1個のパピラがあるが,ときに欠く」とある。その他の形質状態は、観察結果とほぼ符合する。先にキヌヒバゴケと同定した標本No.919と比較してみると、ほぼ同一種として間違いなさそうだ。