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[標本番号:No.1157   採集日:2017/02/26   採集地:栃木県、鹿沼市]
[和名:キヨスミイトゴケ   学名:Barbella flagellifera]
 
2017年2月27日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a〜f) 植物体、(g) 一個体、(h) 乾燥時、(i) 湿時、(j) 枝葉、(k) 顕微鏡下の葉、(l) 葉の先端、(m) 葉中央部の縁、(n) 葉の翼部、(o) 葉身細胞、(p) 葉の断面、(q) 茎の断面、(r) 枝の断面

 鹿沼市の石裂山登山口周辺は高湿度の谷で、登山道への沢筋にはキヨスミイトゴケが至る所から多量にぶら下がっていて壮観だ。カメラのテストを兼ねて、徐々に近づきながら撮影してみた(a〜f)。絡み合ったコケをほぐして一個体だけを抜き出すと長さ20〜40cmほどあった(g)。
 茎は這い羽状に分枝し、樹木の枝や岩から長く垂れさがる。長いものでは1mを超えていた。乾燥時には葉が茎に密着して細い紐のようになるが(d, g, h)、湿り気を与えるとたちまち葉が展開する(i)。なお、枝先ちかくの葉は茎から展開して縮れたようになったものもある。
 茎や枝基部の葉はやや大きく幅が広い。垂れ下がった枝の葉は小さく、卵状楕円形で先が芒となって長く伸び長さ1.2〜2mmで、弱い中肋が葉の中央部近くまで伸びる。葉の縁には小さな歯があり、翼部がやや発達している。
 葉を顕微鏡で見ると葉身細胞の中央に乳頭状突起があるため、ざらついて見える(k)。葉身細胞は線形から長い菱形で、幅6〜10μm、長さ60〜90μm、薄膜で中央に乳頭状突起が一つある(o, p)。茎や枝の断面に中心束はなく、茎の中央部の細胞は薄膜大型で、縁の細胞は厚膜で小さい(q, r)。
 葉の断面を乳頭突起が分かるように切り出そうと、何度も試みたが上手く切り出せなかった。かろうじて切り出したのが画像(p)で、小さな薄い葉の切り出しの難しさを痛感した。現在2月初めに採取した標本が5〜6点ほど手元にあるが、新しく採集したコケに若い標本番号を与えることになってしまった。