Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.1171   採集日:2017/03/30   採集地:栃木県、塩谷町]
[和名:オオトラノオゴケ   学名:Thamnobryum subseriatum]
 
2017年4月16日(日)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 枝を拡大、(f, g) 枝葉、(h) 枝葉先端部背面の中肋上の牙、(i) 枝葉先端の細胞、(j) 枝葉中央部の細胞、(k) 枝葉基部の細胞、(l) 枝葉の断面

 日光市に隣接する塩谷町の尚仁沢遊歩道を歩くと、最も多く見られ最も広く分布しているコケはオオトラノオゴケだった。場所によっては沢沿いの大きな岩や転石をすっかり覆いつくしていたが、朔をつけたものはほとんど見られなかったが、持ち帰った標本をよく見ると、たった一つだけ朔をつけたものがあった(t)。とりあえず観察の練習として検鏡してみた。

 植物体は岩の上に細く丈夫な一次茎を這わせ、そこから硬く丈夫な二次茎を直立させる。二次茎の途中までは枝を出さず、上部で葉を密集させた枝を不規則に出して樹状に広がる。乾湿で全体の姿はあまり変わりないが、枝葉の様子はやや変化を見せる。
 枝葉は枝の中央部の葉が最も大きく、枝の基部や先端部では小さくなり、茎に丸くついて扁平となり、長卵型で長さ1.2〜2.5mm、スプーンのように深く凹み、乾燥しても縦皺はほとんどできず、上半部の縁には大きな歯がならぶ。中肋は葉先近くにまで達し、上部背面中肋上には牙状の歯がいくつか並ぶ。
 枝葉の葉身細胞は、葉中央部で菱形から多角形で、長さ10〜20μm、幅6〜10μm、葉の先端部ではやや小さく、葉の基部では長い矩形となり、いずれの部分でも膜はやや厚く、葉の基部の膜にはくびれがある。枝葉の断面で中肋は4〜6層、中心の細胞はかなり厚膜になっている。
 

 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(m) 茎の基部、(n) 茎の断面、(o) 茎葉、(p) 茎葉先端の細胞、(q) 茎葉中央部の細胞、(r) 茎葉基部の細胞、(s) 茎葉の断面、(t) 胞子体をつけた個体、(u) 朔、(v) 朔歯、(w) 外朔歯、(x) 外朔歯の基部、(y) 内朔歯、(z) 内朔歯の基部、(aa) 内朔歯の先端、(ab) 胞子、(ac) 朔の基部、(ac) 朔基部の気孔

 直立する二次茎の葉は、枝葉よりずっと小さく、茎の周りにややまばらに螺旋状につき、三角形で長さ1〜1.5mm、葉先近くまで達する中肋がある。茎葉の葉身細胞は、枝葉のそれとほぼ同様だが、葉の中央部ではやや長い。茎葉の横断面で中肋は2〜3層。
 胞子体は樹状になった茎上部の途中から出て、赤褐色の朔柄をもち、卵型の朔を軽く傾けてつける。朔は非相称で、朔歯は二重。外朔歯は披針形で基部には明瞭な横条があり、上部は小さな乳頭に覆われる。内朔歯は高い基礎膜をもち、乳頭に覆われた歯突起をつける。胞子は球形で、径10〜15μm、表面は平滑。朔の基部には気孔が多数見られる。

 今回採集したサンプルには胞子体をつけたものは一つだけしかなく、その胞子体の朔には既に蓋がなく、外朔歯も半分近くが崩れていた。この仲間の葉はとても大きいので、ちょっと見たところは楽に横断面の切り出しができそうに思えるが、これがなかなか難物で、20数枚を試みたが、結局一枚もまともな横断切片を切り出すことはできなかった。さらに、崩れかけた朔歯を内外の二つに分けることにも失敗した。また、これぞ口環といえるようなものは見いだせなかった。