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[標本番号:No.1182   採集日:2017/05/30   採集地:群馬県、片品村]
[和名:ハリスギゴケ   学名:Polytrichum piliferum]
 
2017年6月10日(土)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a) 雄株、(b) 雌株、(c) 標本、(d) 雄株:乾燥時、(e) 雄株:湿時、(f) 雌株:湿時、(g) 葉:湿時、(h) 葉:乾燥時、(i) 葉の先端、(j) 実体鏡したで切り出した茎と葉の断面、(k) 新鮮な葉の断面、(l) 古くなった葉の断面

 日光側から県境の金精トンネルを越えて群馬県片品村に入り、標高1,800〜1.900mあたりの日当たりのよい岩礫帯を歩くと、ある一隅の足元にハリスギゴケが一面に広がっていた。雄株(a)と雌株(b)は明瞭に群れを異にしていた。雄株の頂の雄花盤はよく目立つ赤色をしている。雌株の一群は赤色の柄を持った胞子体をつけていた。

 茎は短く高さ1.5〜3cm、分枝はあまりなく、茎の上部に葉を密集させる。葉は乾くと茎に密着し、湿るとやや展開し、長さ3〜4mm、茶褐色卵形の鞘部から披針形に伸び、先端は肉眼でもわかる透明な長い芒となり、葉の縁が腹面の薄板を包み込むように畳み込まれる。芒は葉身の1/4〜1/3の長さがあり、表面には牙状の突起がある。葉鞘部の細胞は矩形で長さ30〜80μm、幅10〜20μm、葉縁の細胞は小さな楕円形。
 薄板は6〜8細胞の高さがあり頂端細胞の形はフラスコ状。薄板は葉の基部から鞘部にかけて次第に低くなり、葉が茎から生えている部分では消える。
 

 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(s)
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(t)
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(u)
(u)
(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 葉鞘部の断面、(n) 葉の薄板、(o) 茎と葉鞘部の断面、(p) 雄花盤の葉、(q) 雄花盤の葉の薄板、(r) 若い造精器、(s) 雄株と帽を被った朔、(t) 帽・蓋・朔本体、(u) 朔、(v) 朔歯、(w) 朔の首部、(x) 朔首にある気孔

 雄花盤を構成する雄苞葉は広卵型で明瞭な中肋部があり、その腹面には前述の葉と同じような薄板が並ぶ。苞葉の基部には多数の造精器嚢がある。
 朔は褐色の毛からなる帽をかぶり、中心が針状に突出した円盤状の蓋をもち、四角柱形をしている。凾ノは口膜がある。朔柄は長さ2〜3cm、赤色で表面は平滑。朔歯はスギゴケ属特有のU字型をした64枚の歯からなる。朔の基部の首の周辺に気孔がある。

 透明な芒を持った葉をそのまま顕微鏡下でみると、葉の厚みのためとても暗くて葉身細胞の形状が分かりにくい。このコケは丈夫でしっかりしているので、実体鏡下での切り出しはとても楽にできる。今回観察したサンプルでは朔歯の十分に完成したものが少なかった。