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[標本番号:No.1197   採集日:2017/04/27   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ナワゴケ   学名:Eumyurium sinicum]
 
2017年8月18日(金)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(a, b) 発生環境、(c) 植物体、(d) 標本:乾燥時、(e) 標本:湿時、(f) 朔をつけた個体、(g) 枝の拡大、(h) 葉、(i) 葉:水封、(j) 葉:0.5%KOHで封入、(k) 葉の先端、(l) 葉身細胞

 4月29日に矢板市の八方ヶ原で採取したコケ類の観察を終えてほっとしたのも束の間で、採集箱を見ると4月27日に奥日光の小田代ヶ原と戦場ヶ原で採集したコケが何点か忘れ去られてそのままになっていた。今日も雨でフィールドには出られなかったので、そのうちのひとつ、倒木や樹幹に厚いマットを作っていたややゴワゴワした硬めの感触のコケを観察した。

 一次茎は非常に細く倒木や樹幹の表面を這い、二次茎は多数密集し斜上して、長さ2〜5cm、わずかに枝分かれする。葉をつけた茎の幅は乾燥時1.5〜2.5mm、湿時2.5〜3.5mm。葉は密に覆瓦状につき、乾燥時にはわずかに茎に接し、湿るとやや展開する。
 葉は卵形で長さ2.5〜3.2mm、舟形に深く凹み、強く明瞭な縦襞が多数あり、先端は急に細く尖る。葉縁は先端付近にだけ微細な歯があるが、ほぼ全周にわたって全辺で、中肋はほとんどないか、二叉する非常に短いものがある。葉身細胞は、葉先付近では長い菱形から蛆虫形ないし線形で、長さ15〜30μm、壁は厚い。葉中央部では長紡錘形から線形で、長さ35〜50μm、壁は厚くくびれがある。葉基部縁の細胞は方形で長さ10〜15μm、褐色を帯びて壁は厚く、基部中央の細胞は線形で、長さ50〜60μm、厚壁で強いくびれがある。0.5%KOHで葉を封入すると明るい黄色味を帯びる(j)。3%KOHでは全体が濃黄色に変色する。
 

  
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 葉基部の縁、(n) 葉基部の中央部、(o) 葉の断面、(p) 葉断面の細胞、(q) 茎の断面、(r) 朔柄、(s) 朔、(t) 朔歯、(u) 外朔歯、(v) 外朔歯基部、(w) 外朔歯先端、(x) 胞子:大きいタイプ

 茎の断面で表皮細胞は厚壁で小さく、明瞭な中心束はみられない。胞子体は枝の途中からでて、朔柄は長さ1〜1.2cm、朔は楕円形で相称、長さ1.8〜2mm。外朔歯は披針形で16枚、灰白色で基部から二裂し、表面は微細なイボでおおわれる。内朔歯の有無は不明。明瞭な口環がある。胞子に大小があり小さいものは径20〜25μm、大きなものは50〜60μmほどあり、いずれも表面には微細なイボがある。

 配偶体の観察結果から判断するかぎり、Pterobryaceae(ヒムロゴケ科)のEumyurium sinicumに落ちる。保育者図鑑ではこの学名に対して「ナワゴケ」の和名を、平凡社図鑑では「フクラゴケ」の和名を与え「ナワゴケ」の名称も細字で記される。ここではナワゴケの和名を採用した。
 この標本の朔がなんとも奇妙な朔歯をもっているので、8月17日付けの「たわごと」に「なんて奇妙な朔歯なんだ!」という一文を記したが、この標本の朔が奇形でないとすれば、ナワゴケとするのは不適当かもしれない。それにしても、このコケは朔をつけたものが非常に少なく、あったと思うと混ざって生育している別のコケの朔だったりした。結局整った形の朔は2本しか得られず、それも今回の解剖作業でつぶしてしまった。したがって、再度検証したいと思っても、手元標本に朔は残っていない恐れが大きい。