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[標本番号:No.1198   採集日:2017/04/27   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ナガヒツジゴケ   学名:Brachythecium buchananii]
 
2017年9月6日(水)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(a) 発生環境、(b, c) 植物体、(d) 標本、(e) 標本拡大:乾燥時、(f) 標本拡大:湿時、(g) 二次茎の葉[右]と枝の葉[左]、(h) 二次茎の葉の上部、(i) 枝葉、(j) 中肋の先端、(k) 葉身細胞、(l) 翼部の細胞

 新たなコケ観察をしたいが、いまだに今年採取した古い標本が十数点ほど残っている。それらを一通り見終えたら、改めて日光市の自宅界隈のコケや自分にとって未知のコケの生態などをじっくりと観察したいと思っている。今日取り上げたのは4月に奥日光で採取した標本。

 倒木の樹皮上に黄緑色のマット状についていた。一次茎は細く樹皮上にへばりつく様に這い、随所から二次茎を出し、不規則羽状に多くの枝をだす。細い一次茎は3〜8cmほどになる。二次茎や枝は斜上したり匍匐している。二次茎の葉は卵状披針形で縦皺があり先端は急に尖り、長さ1.5〜2mm。枝葉は二次茎の葉に比べてずっと小さく、丸みを帯びた三角形〜披針形で先端は漸尖し、長さ0.8〜1.2mm。茎葉も枝葉も葉縁もほぼ全縁だが、茎や枝上部の葉では周囲に微細な歯がある。いずれも中肋は葉長の1/2〜2/3ほどで、中肋の先端には、ときに目立たない小さな突起がある。葉身細胞は線形で、長さ40〜80μm、平滑で薄膜。葉の翼部はあまり発達せず、長さ20〜30、幅10〜15μmほどの方形の葉身細胞が並ぶ。
 

 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(m) 標本の朔、(n) 胞子体、(o) 朔:乾燥時、(p) 朔:湿時、(q) 外朔歯[左]と内朔歯[右]、(r) 外朔歯、(s) 外朔歯の基部、(t) 外朔歯の先端、(u) 内朔歯、(v) 内朔歯の基部、(w) 内朔歯の先端、(x) 朔基部の気孔

 朔柄は赤色〜赤褐色で、長さ9〜15mm、全体にわたって平滑。朔は斜上ないし水平につき、長卵形で非相称。朔歯は二重で、口環は見られない。外剋浮フ先端は微細なイボに覆われる。内朔歯は高い基礎膜を持ち、先端部には微細なイボがある。朔の基部には気孔がみられる。

 茎が這い、不規則羽状に分枝し、葉が卵状披針形で、中肋が一本で葉長の中ほどくらいに達し、葉身細胞が線形で、翼部はあまり発達せず、毛葉を持たず、長い朔柄の先の朔は非相称、などの特徴から、アオギヌゴケ属だろうと検討をつけた。さらに、朔柄上部に乳頭はなく全体に平滑で、葉縁はほぼ全縁であり、湿ったときに葉があまり展開しないことなどから、ナガヒツジゴケ Brachythecium buchananii だろうと見当をつけた。それにしても、採取から4ヶ月以上経過すると当初の黄緑色の葉はすっかり褐色〜黄褐色となり、朔歯も全体にかなり崩れていて、時の経過を思い知らされた。