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[標本番号:No.1219   採集日:2018/02/23   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:カヤゴケ   学名:Rhynchostegium inclinatum]
 
2018年3月20日(火)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a) 発生環境、(b) 朔をつけた植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e, f) 枝葉、(g) 枝葉の先端、(h) 枝葉の葉身細胞、(i) 枝葉の基部、(j) 胞子体、(k) 朔、(l) 朔歯

 先月23日に栃木市星野の四季の森にセツブンソウを見に行ったときに、遊歩道の両脇のあまり日当たりのよくない岩に朔を多数つけたコケが着いていた。
 茎は岩の表面をはい、不規則羽状に分枝し、やや扁平気味に広がり、葉にはツヤがある。葉はあまり密生せず、乾燥しても枝に接することはなく、湿時とあまり変わらない。茎葉はやや扁平につき、長さ1.4〜1.8mm、卵状披針形で長く尖り、葉縁には全周にわたって細かい歯がある。中肋は一本で、葉長の2/3〜3/4ほどで終わり、先端に歯や突起はない。
 枝葉の先端の葉身細胞は長楕円形〜紡錘形で、長さ30〜50μm、薄膜で平滑。枝葉中央部の細胞は線形で、長さ80〜100、幅8〜10μm、薄膜で平滑。枝葉基部では翼部の発達は悪く、葉身細胞は矩形で、長さ30〜50μm、幅12〜20μm、薄膜で扁平。茎葉は枝葉よりやや大きめのものが多く、葉身細胞の様子は枝葉とほぼ同様。
 朔柄は赤色で長さ15〜20mmで、表面は平滑。その一方で長さ8〜10mmの短いものがしばしば同一の枝からでる。朔は長卵形で長さ1.4〜1.6mm、非相称で傾いて着く。朔歯は二重で湿ると閉じ、乾燥すると開く。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(m) 外朔歯、(n) 外朔歯の基部、(o) 外朔歯の先端、(p) 内朔歯、(q) 内朔歯の基部、(r) 内朔歯の上部、(s) 朔柄の表面、(t) 朔表面の基部、(u) 朔基部の気孔、(v) 胞子、(w) 枝の断面、(x) 朔歯

 外朔歯は細長い三角形で8枚、基部には横条があり、先端部は微細なイボに覆われる。内朔歯はやや高い基礎膜をもち、歯突起や間毛の表面は微細なイボに覆われる。朔表面の基部には気孔が見られる。胞子は球形で径12〜15μm。茎や枝の断面には中心束がある。

 カヤゴケ Rhynchostegium inclinatum としてよいのではないかと思う。現地では、あちこちの岩に多数ついていたので、ありふれたアオギヌゴケ属の蘚類だろうと思っていた。しかし、観察結果を書き出して図鑑やNoguchiにあたってみてもアオギヌゴケ属に該当する種が見つからず、カヤゴケ属をあたってみることになった。2月28日には観察と撮影を終えていたが、そのあと図鑑やモノグラフなどにいろいろあたって迷っているうちに3週間以上が経過してしまった。
 持ち帰った標本に朔の蓋がついたものはなく、正確な蓋の様子は記述できなかったが先端がやや長く尖っていた。口環が発達している様子だったが、画像は取り上げなかった。帽の観察はできなかった。また、茎葉はいずれも崩れたものばかりだったので、画像は取り上げなかった。