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[標本番号:No.1238   採集日:2018/03/29   採集地:栃木県、日光市]
[和名:エダツヤゴケ   学名:Entodon flavescens]
 
2018年5月11日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
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(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a) 発生環境、(b, c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 茎葉と枝葉、(f) 雌苞葉、(g) 茎葉、(h) 茎葉の先端、(i) 茎葉の翼部、(j) 茎葉の葉身細胞、(k) 枝葉、(l) 枝葉の葉身細胞、(m) 内雌苞葉、(n) 外雌苞葉、(o) 雌苞葉の葉身細胞、(p) 雌苞葉の基部の細胞、(q) 胞子体、(r) 朔

 3月29日に日光だいや川公園で直立した細長い朔をつけた奇妙なハイゴケの仲間を見た(a)。その奇妙な朔をつけたハイゴケ属を採取したつもりだった。しかし、採取した標本をよく見ると、ハイゴケ属の朔のように見えたのは、ハイゴケ絨毯の底の方に潜むように混生していたツヤゴケ属の朔だった(b)。このツヤゴケ属の蘚類を観察した。

 茎は長さ6〜8cm、羽状に分枝し、枝は茎に比して非常に細く、一部の小枝では先端が糸状となり長く伸びて仮根を密生する。乾燥時には葉は茎に接するが、湿時には開出する。茎葉は広卵形の基部から漸尖し、全体が三角形のような姿となり、長さ2.0〜2.5mm、葉先付近の縁には微細な歯がある。葉先の葉身細胞は長い菱形〜線形で、幅5〜8μm、長さ20〜40μm、葉の中央部では幅5μm前後、長さ60〜110μm、薄壁で平滑、翼部は透明で長径15〜20μmの方形の細胞が並ぶ。枝葉は長卵状披針形で、葉縁には微細な歯があり、長さは1mm前後。葉身細胞は茎葉の葉身細胞とほぼ同じ。雌苞葉は内側のものが長く、幅広の披針形で長さ2.5μmを越えるものがあり、外側の葉は基部が鞘状の幅広三角形で、長さ1mm前後。雌苞葉の葉身細胞はやや厚壁で、長さも80〜120μmほどあり、鞘状の基部の細胞は透明で長い矩形。茎の断面で、表皮細胞は小さくやや厚壁、弱い中心束が見られる。
 

 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(s) 外朔歯、(t) 外朔歯基部と口環、(u) 外朔歯の先端、(v) 内側から見た朔歯、(w, x) 分かりにくい内朔歯、(y) 朔の基部、(z) 朔基部に見られる気孔

 朔柄は赤色で平滑、長さ20〜30mm、朔は長い円筒形で直立し相称、長さ3.5〜4mm。朔歯は二重で、外朔歯は基部で二裂し披針形、内朔歯は発達が悪く、低い基礎膜から伸びる歯突起ばかりが目立つ。外剋浮燗熏歯も、表面には細かな乳頭がある。口環がよく発達している。朔の基部には気孔があるが、数は少ない。胞子は球形で径12〜15μm。

 保育社図鑑の検索表からEntodon rubicundusに落ちる。この種は長い円筒形の朔と、枝の先端の形状から他のツヤゴケ属とは際立った相違を感じさせられる。なお学名は平凡社図鑑に準拠してE. flavescensとした。