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[標本番号:No.1231   採集日:2018/3/25   採集地:栃木県、矢板市]
[和名:サヤゴケ   学名:Glyphomitrium humillimum]
 
2018年5月17日(木)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a) 発生環境、(b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e, f, g) 葉、、(h) 葉の先端、(i) 葉の中央部、(j) 葉の基部、(k) 葉中央部の葉身細胞、(l) 葉基部の葉身細胞

 矢板市の栃木県民の森で足元の落ち枝からでている蘚類を持ち帰っていた。昨日ようやくこれを観察した。全体に若かったのか、成熟した朔をつけた個体はほとんどなかった。朔柄を覆う雌苞葉が特徴的だったので、おそらくサヤゴケだろうとは思ったが、同定に関しては全く自信がなかったので、いろいろと観察して確認した。結論としてはサヤゴケとしてよさそうだ。

 足元の落葉の上に転がっていた枝に丸山形をなして着いていた。茎は基部でわずかに分枝し直立して立ち、長さ2〜6mm。葉は乾燥時には茎に接し、湿時には展開し、披針形で長さ2mm前後、上半部は漸尖し、先端は急に尖る。葉縁は全縁でやや反曲し、中肋は葉頂に達する。
 葉中部の細胞は丸みを帯びた方形で8〜15μm、平滑で膜は厚く、断面で見ると縁は2細胞層の厚さがある。葉基部の細胞は薄壁で大型の矩形で、長さ20〜50μm、幅10〜20μm、ほぼ透明。中肋の断面で顕著なガイドセルがみられ、背面側には多くのステライドがある。
 

 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
(p)
(q)
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(r)
(r)
(s)
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(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 葉中央部の断面、(n) 中肋の断面、(o) 雌苞葉、(p) 雌苞葉の葉身細胞、(q) 胞子体、(r) 朔と帽、(s) 老熟した朔、(t, u) 残存していた朔歯、(v) 朔歯の一部、(w) 朔基部の気孔、(x) 胞子

 朔柄は枝の頂に付き、長さ3〜4mm、雌苞葉に筒状に包まれる。雌苞葉は時に朔の基部にまで達する。朔は倒卵形、長さ0.8〜1.0mm、先端が嘴状の薄いベール状の帽にすっぽりつつまれる。成熟した朔は淡黄色で基部には極くわずかの気孔を持つ。朔歯は一重で、短い二等辺三角形で、基部には密に横条がある。胞子は径8〜12μm。

 採集した標本には、朔歯をつけた成熟した朔がほとんどなく、かろうじて2つだけ朔歯をつけていた。しかし、その朔歯も大部分は失われていて、全体で何枚の朔歯があるのかは数えられなかった。また、蓋も残っていなかった。口環があるとされるが明瞭に捉えることはできなかった。昨年12月に見たサヤゴケ(標本No.1214)はヒナノハイゴケに交じって絨毯上に群生していたが、今回のものは前述のように落ち枝に丸山形に発生していた。口環の様子はこのときもよくわからなかったが、今回もやはり上手く観察できなかった。