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2009年11月29日()
 
農家で栽培の「スギゴケ」
 
 きのこ博士館は茨城県那珂市にある。そこで秋にきのこ鑑定員をやっている友人からコケが届いた。きのこ博士館の近くの農家で栽培しているコケだという。「スギゴケ」として出荷されているらしい。小袋を開くと、オオスギゴケかウマスギゴケのようにみえた(a)。
 今年は夏から秋にかけて、ミズゴケから生えるきのこを調べていたこともあって、宿主のミズゴケをよく観察した。2ヶ月間に観察したミズゴケは50点を越えた。湿原にはミズゴケに交じってウマスギゴケの大群落をしばしばみたが、きのこの宿主ではないため、採取や観察はしていない。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
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(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 久しぶりにスギゴケの仲間を観察した。凾つけた個体はなかったが、乾燥状態のものをみると、ウマスギゴケかオオスギゴケに間違いない。葉の鞘部の透明な細胞は長さ60〜110μm。葉の薄板は腹面上側からみて横長の矩形の列で(h)、葉横断面をみると6〜7細胞高(i, k)、端細胞は断面で凹型(i)、横から見ると凸凹している(k)。鞘部には薄板はなく(j)、茎の横断面には中心柱があって、表皮は厚膜の小さな細胞からなる(l)。

 園芸店では大型のスギゴケの仲間を「スギゴケ」の名称で、小型のスギゴケ類を「コスギゴケ」の商品名で販売しているようだ。この「スギゴケ」はウマスギゴケ Polytrichum commune かオオスギゴケ P. formosum であって、スギゴケ P. juniperinum であることはほとんどない。一方、「コスギゴケ」は実際にコスギゴケ Pogonatum inflexum もあるが、ヒメスギゴケ P. neesii やシンモエスギゴケ P. nipponicum ばかりのこともしばしばあった。したがって、スギゴケ科蘚類を栽培している農家に尋ねると、スギゴケかコスギゴケの名前が帰ってくる。